信頼できる確かな画像を、もっと手軽に - クラスター根の組織から読み解く、植物リン吸収メカニズムの本質

広島大学・山田大綱先生のインタビュー

臼井 省吾

Product Manager, Life Science Core Microscopes

30 April, 2026

Introduction

植物がどのように過酷な環境下でも栄養を吸収し、生き抜いているのか──。この問いに挑むのが、広島大学の山田大綱先生です。山田先生は、リンの吸収に関わる「クラスター根」と呼ばれる特殊な根の構造と機能に注目し、研究を進めています。本インタビューでは、山田先生がクラスター根の研究に焦点を当てる理由、その面白さや難しさ、そして顕微鏡観察、とくにAPX100の活用が研究の質にどう貢献しているのかについて、お話を伺いました。

About Dr. Hirotsuna Yamada

広島大学大学院統合生命科学研究科 特任助教。2025年4月に着任。オーストラリアでの留学経験を活かし、極限環境に生育する植物の栄養吸収メカニズムに関する研究を推進している。特に、リンの吸収に関与するクラスター根における代謝物や酵素の分泌機構、ならびにそれらに関連する遺伝子に注目して研究を行っている。

Q1: 現在、力を入れている研究はどのようなものですか?

植物がどのようにしてリンを効率的に吸収しているのかを明らかにするため、日々研究に取り組んでいます。特に注目しているのが「クラスター根」と呼ばれる特殊な根の構造で、この根は表面積の拡大だけでなく、有機酸や酸性ホスファターゼといった分泌物を大量に放出することが知られています。非モデル植物を研究対象(Fig1)としているため、遺伝子組換えなどの操作は難しいのですが、染色による観察や酵素活性の測定、遺伝子発現解析など、さまざまな手法を組み合わせて研究を進めています。

Fig 1. 本研究で用いた、南西オーストラリアに自生するピンクッションハケア(Hakealaurina)のクラスター根。側根が密集してブラシ状の構造を形成。

Q2:クラスター根の研究に焦点を当てたのはなぜですか?

クラスター根は、難吸収性の栄養源であるリンに対して植物が進化させた非常にユニークな適応形態です。特に、クラスター根の形成を担う鍵遺伝子は未解明であり、我々はクラスター根の小根(クラスター根を成す、一本一本の小さい根)の発生に焦点を当て、小根原基の形成を制御する遺伝子の探索を進めています。

この研究は、植物の栄養吸収戦略の理解を深めるだけでなく、リン資源の有効利用に着目し、農業や環境保全にも応用可能な知見を提供できると考えています。

Q3: 実験を行う上で、APEXVIEW APX100ベンチトップイメージングシステム(APX100)はどのように役立っていますか?

植物の栄養吸収メカニズムを明らかにするための研究では、実験の工程が多岐にわたります。植物の栽培、フィールドでの採取から始まり、無機元素の分析、酵素活性や代謝物質の測定、遺伝子発現解析など、日々多くの作業が並行して進められています。その中で、顕微鏡観察は全体のごく一部、割合としては数パーセントにも満たない工程かもしれませんが、そこで得られる画像が研究の信頼性を左右することも少なくありません。

私自身も、顕微鏡観察への「慣れ」が研究に必要な作業のひとつでした。New Phytologist に投稿した研究では、クラスター根における酸性ホスファターゼ※1の活性と局在するスベリン※2を検出するために、根を試薬(ELF97 phosphate: 酸性ホスファターゼ、Fluorol Yellow 088 :スベリン)で染色し、APX100で蛍光観察(Fig2)を行いましたが、切片作成から論文品質の画像取得に至る過程を、わずか3回のトライアルで完了することができました。

APX100は画質の良さだけでなく、観察に至る導線がスムーズで、スライド上に並べた複数のサンプルを一括で俯瞰できる機能や、観察したい部位にすぐにアクセスできる操作性は、画像取得作業の効率化に貢献していると感じています。

また、蛍光観察だけでなく、観察した植物の色味や質感が画像として自然に再現される点も印象的でした。本研究において、クラスター根の機能を理解するために、根の構造や、それに対応するスベリン形成の箇所を可視化することが重要なポイントでした。そこでAPX100を用いて、クラスター根/ 非クラスター根部位切片の同一箇所を、蛍光/ 明視野で交互に観察 Fig3 し、クラスター根が中心部を除きスベリンの局在がないこと( 蛍光観察)と、クラスター根の構造をリグニン※3の色と組織形態を元に確認しました(明視野観察)。その結果、クラスター根を有する超低リン耐性植物は、土壌からの物質侵入を防ぐスベリン外皮が形成されないため、根

の内側の細胞層から分泌物が周辺土壌にスムーズに拡散されるという、優れた根分泌能を支える新たな分泌経路が明らかになりました。植物の機能を理解するうえで、種ごとの根の構造の違いを丁寧に観察することは非常に重要です。モノクロとカラー、2種類のカメラが搭載されていることで、蛍光シグナルを観察しつつ、目視観察に近い自然なカラー画像も同時に取得できる点は、植物研究において大きな価値を持ちます。

顕微鏡観察は、研究全体の中では一部の作業ではありますが、その一部を信頼性の高い手段で確実に、また効率よくこなすことが研究全体の質を支えるのだと、実感しています。

1 酸性ホスファターゼ:リン酸化合物からリン酸(Pi)を切り離す酵素の一種。特に植物においては、根から分泌され、土壌中の有機態リンを分解して無機態リンに変えることで、リンの吸収を助ける重要な役割を果たす。酸性条件で酵素活性が高いことから酸性ホスファターゼと呼ばれる。

2 スベリン:植物根において維管束を取り囲む同心円状に形成される細胞壁成分で、水分や溶質の移動を制御することで、有害物質の侵入を防ぐ物理的な防御壁として機能する。一般的に、内皮細胞と外皮細胞に形成される。

3 リグニン:植物細胞の細胞壁を構成する主要成分の一つで、植物に強度を与え、微生物や害虫から植物体を守る役割を担う。

Fig2. クラスター小根の蛍光観察。リン酸の可溶化に関与する酵素「酸性ホスファターゼ」の活性を示す。

Fig3. クラスター根(Mature CR)と非クラスター根(Non-CR)の蛍光画像と明視野画像。

クラスター根や非クラスター根では、内皮細胞にあたる中心部(Central root of CR)においてスベリンが緑色で検出される(a, c)が、クラスター根の小根部分(A rootlet)では、内皮細胞へのスベリン蓄積は限定的である(e)。一方、一般的な植物では形成される外側のスベリン層(スベリン外皮)が、対象植物の根においては総じて検出されない(a, c, e)。各々の根の構造は、明視野観察下での細胞構造やリグニン(茶色)の蓄積などから確認できる(b, d, f)。

Q4:将来の研究をどのように見通していますか?

今後は、クラスター根における根分泌からリン吸収まで、その時間的スケールや吸収経路の解明に取り組んでいきたいと考えています。さらに、クラスター根形成を制御する上流の鍵因子の同定にも挑戦しており、遺伝子の時間的・空間的な発現パターンの理解が重要になります。

これらの研究を進める上で、顕微鏡観察のアプローチは不可欠であり、APX100を用いて根を広範囲で捉えた高解像度の貼り合わせ画像や多次元の画像取得にも取り組む予定です。

これまでにない視点でクラスター根のリン吸収メカニズムを解明し、高いリン獲得能力を作物に応用できる可能性を探っていきたいと考えています。

今回の観察では、同大学准教授の小林勇喜先生が所有するAPX100を活用しました。学内での共同利用により、ラボ間を超えた効率的なデータ取得が可能になったといいます。

小林先生は、APX100の画像取得フローについて次のように語ります。APX100の撮影後にコントラスト調整できるフローが気に入っています。

画像調整前のRawデータを提示できることは、顕微鏡に慣れていない人にも安心感を与えます。このフローは、研究データの信頼性を担保するうえで重要な役割を果たしています。特に、論文投稿や共同研究の場面では、元データを提示できることが、結果の再現性や透明性を高める要素となります。

謝辞

本インタビューにご協力いただいた広島大学大学院統合生命科学研究科の先生方

写真左から、准教授 小林 勇喜先生、助教 濱本 明恵先生、教授 和崎 淳先生、

特任助教 山田 大綱先生

免責事項:本インタビューでの意見や発言は、研究者個人のものであり、必ずしもエビデントの見解や主張を反映するものではありません。本記事で紹介されている製品および技術は、研究用途のみに使用されることを目的としており、臨床または診断用途向けには設計されていません。

References

Yamada, Hirotsuna, and Jun Wasaki et al. 2024. “HalALMT1 Mediates Malate Efflux in the Cortex of Mature Cluster Rootlets of Hakea laurina, Occurring Naturally in Severely Phosphorus-Impoverished Soil.” New Phytologist.

臼井 省吾

Product Manager, Life Science Core Microscopes

臼井省吾はエビデントのライフサイエンスコアマイクロスコープ部門のプロダクトマネジャーです。開発部門にてエレクトロニクスエンジニア及びプロダクトリーダーとして10年以上の経験を有し、ライフサイエンス開発部門の一員として顕微鏡イメージングシステムの開発に携わってきました。2023年には中国・上海に赴任し、中国のライフサイエンスリサーチ市場に向けにマーケティング及びカスタマイズ企画を主導しました。その後、グローバルプロダクトマネジャーとして、製品戦略、企画、開発を主導しています。

電気通信大学で応用物理学の修士号を取得しています。