高周波数超音波トランスデューサを指定する際の用途に関する留意事項

事例・お役立ち資料

Grant Reig、Dan Kass、Tom Nelligan共著


トランスデューサの製造テクノロジーおよび関連機器のエレクトロニクスの進歩により、50MHzを超える試験周波数での超音波イメージング、厚さ測定、探傷、および素材分析の機能を提供する製品のご紹介が可能となりました。 粒度の高い金属、セラミック、および薄膜ポリマーなど多くの素材において、高い試験周波数により、従来の20MHz以下の試験周波数と比較すると、大幅に低下した厚さ下限での測定やごく微細な傷など内部構造の検出が可能になっています。 ただし、この高周波数範囲で作業する場合は、複数の基本的なパフォーマンス要因を考慮してトランスデューサを選択することが特に重要になります。 これらの要因には、中心周波数および帯域幅によって決まるエコー回復時間、相対感度、ビーム径、フォーカスゾーン、水中の経路や試験材料内での減衰効果などがあります。 パルサー/レシーバの設計および設定も、ケーブル長と同じくパフォーマンスに大きく影響します。 高周波数の作業で分解能と感度を最適化するには、これらの要因が互いにどう作用し、典型的な試験対象からのエコー応答にどのように影響するかを知ることが重要です。 この論文には、50~225MHzの周波数範囲を利用する特定の試験用途例も含まれています。

1. 試験材料の特性

どの超音波試験においても試験材料の物理特性が音響伝送にどのように影響を及ぼすのか検討する必要があり、その重要性は、周波数が高くなるほど高まります。 試験材料の減衰と散乱は非常に高い周波数の試験においては制限要因になることが多く、音響伝送特性が良好な比較的薄い材料が関連する用途に対して高周波数を使用することは一般に制限されます。軟らかい高分子膜や粒子の粗い鋳造金属など、高レベルの周波数減衰や散乱を示す厚い試験片または試験材料が関連する状況で高周波数を使用することは、現実的ではありません。

減衰と散乱の理論は複雑であり、詳細については別記しました。[1] 特定の音響経路を通ることによる振幅の減衰は(周波数とともに線形に増大する)吸収効果と(粒子の境界など散乱体のサイズと波長の比率に応じて3つのゾーンを通じて変化する)散乱効果の合計になります。 どの場合でも、散乱効果は周波数とともに増大します。[2] 特定温度の材料を特定周波数で試験する場合、一般に1センチメーター当たりネーパー(Np/cm)で表される特定の減衰係数が存在します。 この減衰係数がいったん判明すると、特定音響経路の減衰量を次の方程式によって算出できます。

p = p0-αd [3]

ここで、
p = 経路終端での音圧
p0 = 経路始端での音圧
℮ = 自然対数の底
α = 減衰係数
d = 音響経路の長さ

実際のところ、減衰係数は計算ではなく通常測定によって求められます。 周波数50MHz以上の市販の超音波トランスデューサは通常、帯域幅が非常に広いことから、計算に基づく動作の予測はいっそう困難になります。信号に含まれるさまざまな周波数成分ごとに減衰量も異なるためです。 一般に、特定の試験状況において減衰と散乱から生じる制限を把握する最善の方法は、実験をすることです。

減衰効果はどの超音波試験でも1つの要因にはなりえますが、高周波数では特に劇的であり、最適な試験周波数を選択する場合、考慮する必要があります。 実際のところ、特定の用途における最大試験周波数は、試験材料のローパスフィルタリング効果によって常に制限されます。 次の例(図1)で、左側の波形とスペクトルは、エネルギーの中心が136MHzにある高周波数トランスデューサ(Panametrics-NDT V2064)の遅延材からのエコーを示しています。 右側の波形とスペクトルは、0.25mm(0.01インチ)のアクリルからの(ゲインを24dB増大した)背面エコーを示しています。 中心周波数は76MHzとなり、それよりも高い周波数はプラスチックでフィルタリングされ、位相歪みもはっきりと確認されます。

図1. 0.25mm(0.01インチ)のアクリルを通過した後に136MHz(上図)から76MHz(下図)への信号の典型的な下方シフトを示す波形

2. 水中経路の効果

水の減衰効果は、水槽や水柱を介して試験片に音がカップリングされる水浸測定において考慮する必要がある追加要因です。 広帯域パルスの高周波の構成材は低周波の構成材よりも早く減衰するので、水中経路が長いとトランスデューサの中心周波数が実質的に下方にシフトし、影響は水中経路が長くなるほど増大します。 さらに、受信信号における周波数の下方シフトは、フォーカスゾーンの形状に影響します。集束ビームの直径と、特定の素子径やレンズ設計のトランスデューサからのフォーカスゾーンの長さが両方とも周波数に応じて変化するためです。 この影響は、使用する水中経路が長い場合に大きくなることがあります。 実際のところ、実効試験周波数の大幅な下方シフトを防ぐために、高周波数では水中経路を非常に短い状態に維持する必要があります。 典型的な固体と異なり、水中では、音響の減衰は水温の上昇とともに大幅に減少します。 従って、高周波数の水浸試験では、(トランスデューサの規定の許容温度範囲内で)温水を使用すると減衰効果が減少します。 水中での減衰については、15℃の冷水と25℃の温水との間で約25%の低下が起こります。 [4]
水の中を進む広帯域パルスのピーク周波数の下方シフトは、次の方程式によって算出できます。

[5]

ここで、
f0 = 減衰していないピーク周波数
fpeak = 減衰したピーク周波数
α = 水中での減数係数、25.3 x 10-17 Np/cm/Hz2(通常、20℃)
Z = 水中経路の合計長(センチメートル)
σ = f0(% 帯域幅)/236

表1に、一般的な高周波数水浸型トランスデューサの受信信号において、5%、20%、および50%の中心周波数の下方シフトを生じさせる1方向の水中経路について、おおよその長さを示します。 上記は水中経路の合計長(往復長)を計算する公式であることに注意してください。 実際の試験条件をより明確に示すには、これらの数値を調整して、トランスデューサのレンズから試験片表面までの1方向の距離を表します。

表1. 周波数損失と水中経路

周波数/帯域幅

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3. トランスデューサの設計上の注意点

典型的なNDTの用途に使用される超音波トランスデューサでは、中心周波数と帯域幅によって決まるエコー回復時間によって、測定可能な最小厚さや表面近くのデッドゾーンが決まります(図2)。 軸方向分解能の最適化に関して、高周波数の用途では、70~110%の範囲にある、-6dBの帯域幅で減衰の大きい広帯域トランスデューサが一般的に使用されます。

図2. 225MHzの遅延材付きトランスデューサ(Panametrics-NDT V2113)、スケール10ns/div、5ナノ秒未満のエコー回復時間で0.025mm鋼を測定

この周波数範囲のピエゾセラミック素子は非常に薄くデリケートなので、この種の従来型トランスデューサでは一般に、石英ガラスの遅延材または同様の材料に素子を接着する構成技法を用いて、顕著な減衰なしに機械的強度を得ています。 この方法は、遅延材接触式の水浸型トランスデューサに利用できます。 石英ガラスは水など低インピーダンス材料との音響インピーダンスの差異が大きいため、かなりのエネルギーがバッファ端から反射される場合があります。 代わりに、水浸型トランスデューサでは、めっきしたピエゾポリマーの薄膜を水に直接接触させて利用することが可能です。 そのようなトランスデューサは水への音響カップリングが優れ、実効感度が増大する利点がありますが、非常にデリケートなため、慎重に取り扱わないとポリマー被膜に傷や裂け目が生じます。

通常の超音波試験周波数で作業する場合と同様に、高周波数の作業でもビーム集束技術がよく採用されます。 強く集束したビームを発生させるため、かつ短い水中経路を使用可能にするために、焦点は一般的に非常に短いものになります。 鋭い集束により、画像処理の用途では横方向の分解能およびパルス/エコー探傷での微細な欠陥の検出能力が最適化されます。 市販のトランスデューサで、0.05mm(0.002インチ)の集光スポットサイズを容易に達成することができます。 同時に、鋭い集束に伴う短いフィールド深度により、特にセラミックのように高音速の材料で作業する際に、深度に関する実効感度が急激に変化する場合があります。
集束ビームに関するおおよその特性は下記の方程式で算出できます。広帯域出力ではなく単一周波数を想定しているため、広帯域幅では多少不正確になります。 なお、フォーカスゾーンの特性は、常に試験材料の音速、焦点距離、および近距離音場限界距離に応じて算出する必要があります。また、音響経路のローパスフィルタリング効果によって引き起こされる周波数の下方シフトの影響を反映するために調整する必要もあることに注意してください。

焦点での-6dBビーム径:

ビーム径= .2568DSF
ここで、

D= 素子径
SF = 焦点距離/近距離音場限界距離

-6dBのフォーカスゾーンの高さ(軸上のパルス/エコー信号の振幅が焦点位置でピークの50%に低下する近点と遠点の間の距離):

フォーカスゾーン = (N)( SF2) [2 / 1 + .5 SF)]

ここで、N = 近距離音場限界距離

フォーカシングゲイン(非焦点式トランスデューサと比較した焦点位置での感度の相対的増加)はSFに基づき、次のグラフ(図3)から推測できます。

図3. フォーカシングゲイン

フォーカススポットサイズの顕著な効果は下のC-スキャン画像で見ることができます。画像では、公称0.25mm(0.01インチ)の直径で酸化アルミニウムにレーザードリル加工し、0.025mm(0.001インチ)のスキャンインデックスで画像化した一連の基準穴が示されています(図4)。 左の画像は、約0.5mm(0.02インチ)の-6dB理論焦点直径を持つ、20MHz、素子径3mm(0.118インチ)、焦点19mm(0.748インチ)(水中)のトランスデューサを使用して作成したものです。 焦点でのビームスポットサイズが目標の穴より大きいため、画像がぼやけています。 右の画像は、約0.05mm(0.02インチ)の理論焦点直径を持つ、50MHz、素子径6mm(0.24インチ)、焦点12.5mm(0.49インチ)(水中)のトランスデューサを使用して作成したものです。 フォーカススポットサイズが目標の穴よりはるかに小さいため、画像もはるかに鮮明になっています。

図4. 酸化アルミニウム上の0.25mm(0.01インチ)の穴の画像
左:20MHz、フォーカススポットサイズ約0.5mm(0.02インチ)でのC-スキャン画像
右:50MHz、フォーカススポットサイズ約0.05mm(0.002インチ)でのC-スキャン画像

4. トランスデューサ試験の注意点

観測される超音波トランスデューサのパフォーマンスは、超音波パルスが通過する媒体と、エコーを発生させる反射体によって生じる影響以外に、励起パルスのタイプと大きさ、ケーブル長、およびレシーバの信号処理などの要因による影響も受けます。 これらの要因はすべて、高周波数では特に重要になります。 トランスデューサメーカーは一般的に、特定のパルサー/レシーバ装置類を特定の設定で使用した場合に基づいてパフォーマンスを規定します。 異なる装置類を使用すると、帯域幅や回復時間などのパラメーターに大きく影響することがあります。 さらに、基準ターゲットのタイプ、および水浸型トランスデューサの場合には、水中経路の長さが受信信号に大きく影響します。 高周波数の集束水浸型トランスデューサは、均等な位相の反射体(水中経路の減衰効果を最小限にするためにきわめて短い水中経路(1mm(0.04インチ)未満)を使用可能にする半球レンズ適合の球面ターゲット)を使用して試験されることがよくあります。 トランスデューサに特定のパフォーマンスが必要なユーザーは、混乱を避けるために、これらの注意点についてメーカーと相談する必要があります。

5. 装置類の設計上の注意点

超音波トランスデューサのパフォーマンスは、そのトランスデューサを駆動する励起パルスのタイプによって大きく左右され、高周波数の場合はその影響が特に顕著になります。 50MHz以上での厚さ測定、画像処理、および探傷では、スパイク励起(非常に短い立ち上がり時間および指数関数的減衰特性を備えた負の単一高電圧励起パルス)によって駆動される、高減衰の広帯域トランスデューサを一般に使用します。 周波数応答を最適化するには、励起パルスの立ち上がり時間がトランスデューサの周期よりもかなり短くなる必要があります。 高周波数で使用するように設計されたパルサーは、最短立ち上がり時間が1ナノ秒のオーダーの励起パルスを発生できることが不可欠です。

20MHz未満の通常範囲内の周波数で、超音波トランスデューサは、関連エネルギーが数百マイクロジュールになる数百ボルトの励起電圧に対応できるのに対し、高周波数トランスデューサはもっと穏やかにパルスされる必要があります。 極端な場合、周波数のより低い一般的な多くの探傷器が提供する400ボルトの励起パルスは、高周波数トランスデューサを破壊する絶縁破壊と内部アークを発生させることがあります。 より低い電圧では、トランスデューサが損傷する可能性はありませんが、波形が大きく歪み、帯域幅が損なわれます。 具体的な上限はトランスデューサのタイプとパルサーの構成により変動しますが、一般的な規則として、100MHzのトランスデューサのスパイク励起パルスは120ボルトで約4 uJに制限し、200MHzの場合は60ボルトで2 uJに制限する必要があります。
次の例(図5)では、100MHzの広帯域遅延材付きトランスデューサ(Panametrics-NDT V2012)が、Model 5900PRのパルサー/レシーバーからの1uJ(左)と16uJ(右)のエネルギーによる100ボルト以下のスパイクパルスで励起されています。 エネルギーがより高くなると、飽和効果のためにエコー振幅が実際は減少し、波形の幅が狭まって、位相が歪みます。

図5. 左:1uJの励起 -- 最適な応答
右:16uJの励起 -- 歪んだ応答

レシーバ側には、周波数の下方シフトおよび対応する位相の歪みを発生させずに受信エコーを処理できる十分なRF帯域幅が必要です。 受信信号の少なくとも2倍の中心周波数のRF帯域幅が推奨されます。
高周波数トランスデューサは、パルサーとトランスデューサ間で非常に短いケーブルと併用する必要があります。 電気インピーダンスの不一致が避けられないため、励起パルスの一部はトランスデューサから反射され、その反射部分が今度は第2の励起パルスとしてパルサーからトランスデューサに返されます。 ケーブル内の電気伝播時間がトランスデューサの周期よりもかなり短くないかぎり、このケーブル反射によってトランスデューサが再励起され、表面近くの分解能を制限するリンギングと歪みが発生します。 応答を最適化するには、一般にケーブルを50MHzでは600mm(23.6インチ)未満、100MHzでは300mm(11.8インチ)未満に保つ必要があります。 一部のスキャンシステムの場合と同様に、試験設定でトランスデューサと機器の間にこれより長い距離が必要な場合は、リモートパルサー/プリアンプを使用して短いケーブルでトランスデューサを駆動してから、数メートル離れた親装置に信号を供給します。

下記の図7の波形は、ケーブル反射の影響を示しています。 左は、300mm(11.8インチ)のケーブルを介して励起された100MHzの帯域幅のトランスデューサ(Panametrics-NDT V2012)です。 右は、ケーブル長を900mm(35.4インチ)に延ばしています。 ケーブル反射はトランスデューサのリングダウン時間を大幅に増大させ、トランスデューサの帯域幅を狭めます。


図7. 左:300mm(11.8インチ)のケーブルを使用した100MHzトランスデューサ(最適な波形)
右:900mm(35.4インチ)のケーブルを使用した100MHzトランスデューサ(リンギングの増大)

パルサーの減衰設定は高周波数トランスデューサの応答に大きく影響します。 周波数応答を最適化するには一般に、(50オーム以下の)低い減衰抵抗を使用する必要があります。 トランスデューサケーブルの電気インピーダンスも応答に影響する可能性があることに注意してください。 超音波トランスデューサ用の最も標準的な市販ケーブルは、公称50オームの電気インピーダンスを持っています。 インピーダンスのより低いケーブル(一般に25オームまたは15オーム)を特定のトランスデューサとパルサーに使用すると、中心周波数がわずかに上がり、帯域幅がわずかに減少します。 特定の用途における低インピーダンスケーブルの利点と欠点は、実験によって確認する必要があります。

6. 高周波数超音波の実場面での使用

50MHz以上の超音波トランスデューサが鋭く集束し、ごく薄い材料の層を分析できることにより、20MHz未満の従来の周波数では成し遂げられなかった試験を開発できるようになりました。 同時に、高周波数に伴う減衰と散乱の影響が増大し、減衰が少なく散乱のない試験材料の薄い部分に関連する用途に対してそのような高周波数トランスデューサを使用することは、一般に制限されます。 50MHz以上の試験周波数を使用する最も一般的な用途には、以下があります。

参考文献

[1] Bhatia, A. B., Ultrasonic Absorption: An Introduction to the Theory of Sound Absorption and Dispersion in Gases, Liquids, and Solids (1985), Dover Publications, New York.

[2] Jacobs, Laurence J. and Owino, Joseph O. (2000), "Effect of Aggregate Size on Attenuation of Rayleigh Surface Waves in Cement-Based Materials", J. Engrg. Mech., ASCE 126(11), 1124-1130.

[3] Krautkramer, J. and Krautkramer, H., Ultrasonic Testing of Materials (1990), Springer-Verlag, Berlin Heidelberg New York

[4] Pinkerton, J. M.M. (1949), "The Absorption of Ultrasonic Waves in Liquids and its Relation to Molecular Constitution", Proc. Phys. Soc., B62, 129-147.

[5] American Society for Nondestructive Testing specification E 1065, "Standard Guide for Evaluating Characteristics of Ultrasonic Search Units"