顕微鏡の構成と仕様 ~照明系~
顕微鏡の構成と仕様 ~照明系~
5.照明系(Illuminator)5-1.ケーラー照明
照明は、顕微鏡観察に欠かすことのできない装置である。照明に求められることは、
- 十分に明るいこと
- 明るさが均一であること
- 対物レンズの開口数を満たす(対物レンズの瞳を満たす)照明であること
- 視野絞り、開口絞りで、最適な照明条件を調整できること
などがある。これらの条件を満たすものが「ケーラー照明」である。
ケーラー照明(Köhler Illumination)
1893年、ドイツのケーラー(Köhler)によって考案された照明法である。よりよい観察像が得られるため、今日もっとも多く用いられている。
ケーラー照明は、光源の像を開口絞り位置(コンデンサの前側焦点位置)につくり、視野絞りの像を標本面につくる照明法である。標本をムラなく明るく照明する。また、視野絞りと開口絞りが独立して機能するため、標本面の光の量や範囲を調整できるのが特徴である。
図1 ケーラー照明原理図
レベルアップ:クリティカル照明(Critical Illumination)

図2 クリティカル照明とケーラー照明の比較
視野絞り・開口絞り
視野絞りは、照明する範囲を決め、照明光を標本の観察範囲(実視野)にだけ当たるように調整する。
開口絞りは、照明光の開口数を調整する機構である。開口絞りを調整することで視野の明るさが変わり、像のコントラストや分解能も変化する(ページ下 5-3.絞り 参照)。

図3 視野絞り(上:視野絞り大 下:視野絞り小)

図4 開口絞り(上:開口絞り大 下:開口絞り小)
5-2.コンデンサ(Condenser)
コンデンサは、ケーラー照明の一部であり、光を増強したり集光状態を変化させる。ケーラー照明において集光レンズの役割を担っている。
用途に応じて交換できるようになっており、対物レンズの仕様、種類、開口数、観察方法などに、もっとも適したコンデンサを組合わせて使用する。
基本仕様
- 開口数(NA:Numerical Aperture)
コンデンサの性能を決める重要な値である。開口絞りで調整する(ページ下 5-3.絞り 参照)。
コンデンサの開口数が対物レンズの開口数より小さいと、対物レンズの性能が十分に発揮できず、よい像が得られない。 - 適用対物レンズ
組合わせることのできる対物レンズを示す。視野絞りを全開したときの照明視野と、開口絞りを全開したときの開口数で決まる。
図5 開口絞りの働き
種類
コンデンサは、その性能や用途に応じて数多く用意されている。
基本的に、暗視野コンデンサ以外は、どのコンデンサでも明視野照明ができるようになっている。
性能による種類
・検査
・撮影
コンデンサ
・撮影
用途による種類
5-3.絞り
光学系の光束や光量は、絞りによって制限することができる。観察視野への照明を調整する視野絞りと、分解能とコントラストを調整する開口絞りがある。
図9 視野絞りと開口絞り
視野絞り(FS:Field Stop)
視野絞りは、観察している実視野だけに照明が当たるように調節する機構である。視野絞り環をまわすことで、照明視野が開いたり狭まったりする。実視野よりもわずかに広げた状態が最適である。
開口絞り(AS:Aperture Stop)
コンデンサの中にある絞りである。コンデンサを通して標本を照明する光の開口数を調節する機構である。明るさ絞りともいい、開口絞り環をまわして調節する。
図10 開口絞りの効果
上図のように、絞りの加減によって像の見え方が異なる。開口絞りを絞ると、コントラストはよくなるが分解能が悪くなる。また、明るさも低下する。逆に、開口絞りを開くと、分解能はよくなるがコントラストは悪くなる。また、明るさが増す。開口絞りを対物レンズの瞳径の70~80%にすると、観察に適した像を得ることができる。
5-4.光源(Light Source)
光源には、ハロゲンランプ(6V20W、30Wまたは12V100W)、タングステンランプを使用する。その他、水銀ランプやキセノンランプ、LEDなども使われているが、価格、供給の点からハロゲンランプが主流となっている。
旧式の顕微鏡ではランプの心だし調整が必要であったが、最近の顕微鏡は心だしが不要なプリセンター式になっている。
ランプをフレームに内蔵する方式と、コレクタレンズと組合わせて、ランプハウスを構成する方式がある。
コラム:色温度
観察に適した色温度は5500Kである。しかし、光源として使用するハロゲンランプの色温度は3000~3400Kのため、自然な色で観察することができない。このため、色温度変換フィルタで観察に適した色温度に調節する(ページ下 5-5 フィルタ 参照)。

図11 各種光源の色温度
5-5.フィルタ
フィルタは、自然な色で観察できるように、光源の色を変え観察に適した色や明るさに調整するものである。
色温度変換フィルタ(LBDフィルタ:Light Balance Daylight)
ハロゲンランプとの組合わせで、カラー写真撮影用、観察用に適する。

図12 色温度変換フィルタ
減光フィルタ(NDフィルタ:Neutral Density)

図13 減光フィルタ
その他のフィルタ
(ブルーフィルタ)

正確な昼光ではないので観察専用。カラー写真撮影には適さない。

偏光顕微鏡用の特殊なグリーンフィルタもある。
(緑色、橙色、黄色)

標本に紫~青色の光を当てないようにする。(黄色フィルタ)

チェックポイント
- よい観察像を得るには、明るくムラのない照明で標本を照らすことが必要である
- 視野絞りが標本上を照明する範囲を調整するのに対して、開口絞りは分解能とコントラストを調整している
- フィルタを利用して、光源の色を変え観察に適した色や明るさに調整することができる