顕微鏡の構成と仕様 その4 ~照明系(要素)~
顕微鏡の構成と仕様 その4 ~照明系(要素)~
2-3.照明系の要素
より正確な像を得るためには、ムラなく均一で十分な明るさの照明が必要である。照明系の要素となるコンデンサ、光源、フィルタについて説明する。
コンデンサ(Condenser)
【構造と特徴】
コンデンサは、光を集め、明るさを変える働きをする。開口絞りの調整によって、試料への照明の明るさ、分解能、コントラストを調節できる。
図1 コンデンサの表示
【コンデンサの収差補正】
光学系において、理想像からのズレを収差という。収差には単色収差(球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲収差、像面歪曲収差)と、色収差(軸上色収差、倍率色収差)がある。コンデンサでは照明に必要な最小限の収差補正になっているが、特に、アクロマート・アプラナートコンデンサは、色収差、球面収差、コマ収差の収差補正がされている。
【性能によるコンデンサの種類】
表1 性能によるコンデンサの種類
・低価格である
・収差が大きい
・高倍対物レンズの写真撮影には適さない
・観察、写真撮影に適している
・アポクロマート対物レンズでの観察、写真撮影に適している
図2 性能によるコンデンサの種類
【コンデンサの選択】
暗視野コンデンサ以外は、基本的にどのコンデンサでも明視野照明ができるようになっている。用途に応じて交換でき、観察する対物レンズの仕様、種類、開口数、観察方法などに、最も適したコンデンサを選択し、組合わせて使用する。
表2 観察法によるコンデンサと対物レンズの対応
位相差10×~100×
暗視野 NA0.75以下
微分干渉、位相差10×~100×
暗視野 NA0.7以下
(培養容器観察用で作動距離が長い)
微分干渉10×~60×
油浸系:20x以上 開口数1.2未満
※1 位相差観察用のリングスリットを内蔵したもの。
※2 明視野観察の他、光学素子の交換で暗視野、微分干渉、位相差、簡易偏光の各観察方法に対応できる。
※3 偏光観察用に偏光板を内蔵したもの。
※4 特殊な光学素子を組込んだ専用コンデンサ。コンデンサの外側開口数よりも大きな開口数の対物レンズで観察しないと暗視野観察にならない。
図3 用途によるコンデンサの種類
■使用上の留意点
- 光軸調整や各種観察法ごとの調整をきちんと行うこと。
- ターレット式コンデンサでは、ターレット位置を対物レンズを切換えるごとに変換して、対物レンズとの対応を常に保つこと。
- スイングアウトコンデンサで低倍対物レンズの観察をする場合は、先玉をはねのけないとハロゲンランプのフィラメントによる明るさムラが目立つことがある。
光源
顕微鏡の光源には、ハロゲンランプやタングステンランプ、キセノンランプなどが使用される。光源の種類と用途を下表に示す。
表3 光源の種類と用途
(白熱灯)
・赤外線の光が強く試料に熱が伝わるため、必ず赤外線カットフィルタを使用する。
位相差
微分干渉
偏光
暗視野
(放電ランプ)
・明視野、暗視野の観察に用いる場合、目に障害を与えてしまうため、必ず紫外線カットフィルタを使用する。
一部暗視野照明(高輝度)
(放電ランプ)
・紫外線(UV励起)、青色光(B励起)など複数の励起を切換えて観察する場合、明るさがほぼが均一のため使いやすい。
・緑色光(G励起)の一部の波長帯は、水銀ランプより明るい。
(発光ダイオード)
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- 図4 各種ランプ類
フィルタ
フィルタは、光の透過の前後でその分光特性(光の波長と強度)を変える働きをする。一般に横軸に波長、縦軸に透過率の座標をとった分光透過率曲線(光が物体を透過する割合)でその特性を表す。
単体のフィルタで特性を持たせている場合と複数のフィルタを組合わせ特性を持たせている場合がある。
【特性】
【フィルタの種類と用途】
フィルタの素材には、ガラス、ゼラチン、プラスチックなどが使われている。
- ガラス製
色ガラスフィルタ(ガラス自体に色が付いたもの)
干渉フィルタ(ガラスの表面に干渉膜をコーティングし、波長特性を持たせたもの) - ゼラチン・樹脂フィルム製
ゼラチンや樹脂フィルム(アセテートなど)にフィルタ効果となる成分を混ぜ合わせたもの。 - プラスチック製
プラスチック板に、フィルタ効果となる成分を混ぜ合わせたり、コーティングしたもの。顕微鏡用にはあまり用いられない。
フィルタの種類と用途を下表に示す。
表4 フィルタの種類と用途
(Color Compensating)
(Light Balancing Daylight)
ハロゲンランプは、昼光色と色温度が異なるため、観察時には黄色味を帯びる。色温度変換フィルタで自然な色で観察色できる。
(Neutral Density)
(コントラストフィルタ)
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- 図5 フィルタ
■使用上の留意点
特殊な事情がない限り、フィルタは光軸に垂直な姿勢で光路中にセットする。特に干渉フィルタは、分光特性に入射光の角度依存特性があるため、傾けて使うと分光透過率が変化する。
フィルタは、使用時の光源の強度によっては、長期間使用すると着色現象(通称「ヤケ」)が生じて、波長特性が徐々に変化することがある。
コラム:シャープカットフィルタの規定
シャープカットフィルタは、波長350nmから800nmの範囲内において、ある波長以下の光をできるだけを遮断し、これより長波長の光をなるべく完全に透過させるものとして、波長傾斜幅(⊿λ)、透過限界波長(λT)、高透過域の透過率(TH)、吸収域の透過率(TA)が規定されている(JIS B7113:写真撮影用シャープカットガラスフィルタ)。
- 波長傾斜幅(⊿λ):透過性が72%以上となる波長値と5%以下となる波長値の間隔。
- 透過限界波長(λT):波長傾斜幅の中点に該当する波長。
- 高透過域の透過率(TH):高透過限界波長から800nmまでの高透過域における透過率の平均値。
- 吸収域の透過率(TA):吸収限界波長より30nm以上短い波長の吸収域における透過率。
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- 図6 透過限界波長
用語解説
【吸収限界波長】
透過率が5%の波長。
【透過限界波長】
吸収限界波長と高透過限界波長の中点。
【高透過限界波長】
透過率が72%の波長。