ホワイトペーパー(白書)
共焦点顕微鏡の操作を革新
FLUOVIEW Smart™ ソフトウェア登場
直感的なソフトウェアインターフェースとAIにより効率化された次世代ワークフロー
はじめに
共焦点レーザー走査型顕微鏡は、細胞や組織といった生物試料の高解像度な観察や三次元構造の解析を可能にする装置として、現在では生命科学・医学研究の現場において不可欠なツールとなっています。細胞生物学、神経科学、発生学など、さまざまな分野で広く利用されており、研究の質と再現性を支える基盤技術のひとつです。こうした多様なニーズに応えるため、共焦点顕微鏡は年々多機能化が進み、撮影条件の自由度が大きく向上してきました。その一方で、操作系であるソフトウェアインターフェース(SWインターフェース)は複雑化し、特に初心者ユーザーにとっては、設定や操作に時間がかかる、誤操作が起きやすいといった課題が顕在化し研究活動における大きな障壁となっています。
複雑なソフトウェアインターフェースが引き起こす課題
- 学習コストの高さ:操作方法を習得するまでに時間がかかり、研究の立ち上がりが遅れる。特に初めて顕微鏡を扱うユーザーにとっては、どこから手をつければよいか分からず、教育者のサポートが必要となる場面が多い。
- 誤操作による作業効率の低下:設定項目が多く、必要な機能を見つけにくいことでワークフローが断続的になる。誤操作によってデータの欠損や標本の損傷が発生するリスクも高く、結果として再撮影や再実験が必要になる。
- 共通利用環境でのトラブル:装置への知識や経験値が異なる複数のユーザーが同じ機器を使用するため、他者が変更した設定に気づかずに誤った条件で撮影してしまうことがある。これにより、意図しない結果が得られ再実験になったり、貴重な標本が無駄になったりするケースもある。
このような課題を解決するためには、ユーザーワークフローを考慮した直感的でシンプルなSWインターフェースの構築が不可欠です。
FLUOVIEW Smart™ ソフトウェアによる操作体験の最適化
エビデントのFLUOVIEW Smart™ ソフトウェアは、FLUOVIEW™ FV5000レーザー走査型顕微鏡を、初学者から熟練の研究者まで、研究経験を問わず、誰もが自信を持って効率的に操作できるよう設計されています。以下の3つのアプローチにより、操作の負担を軽減し、研究の効率と再現性を高めます。
グラフィカルなUIとガイドによる学習コストの低下
対物レンズの選択やZ撮影範囲の設定など、顕微鏡の基本的な操作は単なる設定にとどまらず、現在の顕微鏡状態を一見して把握するための重要な情報でもあります。FLUOVIEW Smart™では、これらの設定をグラフィカルに表示し、ユーザーが設定の意味や影響を直感的に理解できるようにしています。さらに、目的に応じた操作ガイドを画面上に表示することで、初心者でも迷わず操作を進めることが可能です。これにより、教育者が常に立ち会う必要がなくなり、ユーザー自身が自律的にデータ取得を行えるようになります。
図2. Z撮影範囲の設定画面. 撮影の開始/終了位置、現在の観察位置が一見して視認できる。
機能の優先度に基づくレイアウト
FLUOVIEW Smart™では、すべての機能を一画面に詰め込むのではなく、使用頻度や重要度に応じて機能を階層化しています。レーザーパワー、スキャン範囲、Zスタック設定など、撮影に直結する主要なコントロールは常にアクセスしやすい位置に配置されており、ユーザーの操作フロー(標本の検出 → 撮影条件の設定 → 撮影開始)に沿って自然に操作が進むよう設計されています。これにより、必要な機能を探す時間が短縮され、誤操作のリスクも大幅に軽減されます。
設定のリセット機能と目的選択による自動レイアウト
FLUOVIEW Smart™は、起動時に設定を初期状態にリセットする機能を備えており、共通利用環境における他者の設定変更によるトラブルを未然に防ぎます。一方で、ユーザーが一度使用した条件を再現しやすくするための保存・呼び出し機能も備えており、2回目以降の実験ではスムーズに再現性のある撮影が可能です。
さらに、観察の目的(例:Zスタック、タイムラプス、貼り合わせ・多点撮影)を選択することで、画面レイアウトや表示されるガイドが自動的に切り替わる仕組みを採用しています。これにより、初心者から熟練者までが習熟度と目的に応じて最適な操作環境で実験を行うことができます。
AI技術による初心者ユーザーの支援
FLUOVIEW Smart™はUXに沿った画面設計によって操作の簡便化を実現するだけでなく、AI技術を活用することで、初心者ユーザーが特に苦労しやすい操作ステップを自動化・最適化し、さらなる支援を提供します。
自動サンプル検出
焦点外の光を除外して断層像を取得する原理上、xyおよびzの一方でも標本位置と合っていない場合に画面に何も表示されず、初心者にとってはどの位置に標本があるか見当がつかず探索が困難となります。画像が表示されないことが装置の不具合に由来するものか、設定に由来するものかを識別できないため。しばしば管理者への問い合わせに繋がることもあります(図4)。
図4. 共焦点レーザー走査型顕微鏡における標本探索の難易度の高さ
この課題に対し、生命科学分野でのAI開発にて実績のあるEpistra社とエビデントが共同開発した画像認識アルゴリズムにより、顕微鏡を標本探索に最適な状態に切り替え、標本の存在領域を自動で特定します。初心者にとって難度の高かった標本探索をより簡便に短時間で完了します。図5に標本位置推定における全体の処理フローを示します。本システムは、低倍率の対物レンズ(4x)で粗くZ軸およびXY軸の位置合わせを行い、その後に高倍率の対物レンズ(10x)で微調整を行うという、エキスパートユーザーによる標本探索手順を模倣する形で設計されています。具体的には、以下の4つのステップを順に実行することで最適な標本位置を自動的に特定します。
Zサーチ(4X)
4x対物レンズを用いた逐次探索*で、探索範囲内における最適なZ位置を粗く特定するステップです。各候補Z位置で撮像を行い、取得した画像に対してAIがフォーカススコアを評価します。その結果に基づき次に探索するZ位置を更新するという試行錯誤を自律的に繰り返し、最終的にフォーカススコアが最大となるZ座標に撮影位置を収束させます。なお、Z探索範囲は、ウィザードにおけるユーザーの選択に基づいて適切に設定されます。
XYサーチ(4倍)
4x対物レンズで取得された画像において、局所輝度が最も高い領域が画面中心に位置するように、XYステージを移動させるステップです。この処理に先立ち、定型異物(例:容器端など)の検知処理が実施され、画面内に異物が認められた場合には、システムが異物検知アラートを出して、処理を停止します。ユーザーはこのアラートに基づき、サンプルのXY位置を手動で調節するなどの対応を行うことができます。
Zサーチ(10倍)
10x対物レンズに切り替え、逐次探索で、探索範囲内における最適なZ位置を特定するステップです。この際、Z探索範囲は、x4で得た最適Z位置、とx4レンズのZ解像度に基づいて決定されます。
XY-SEARCH (10X)
10対物レンズで取得された画像において、局所輝度が最も高くなる場所が画面中心になるようにXYステージを移動させるステップです。本プロセス終了後、システムはその時点の顕微鏡画像をユーザーに提示し、探索処理を完了します。
*逐次探索:一定の探索範囲内を撮像と評価を繰り返すことで効率的に探索し、標本位置を特定する方策。アルゴリズムとしてはベイズ最適化をベースにした方法を採用しています。
図5. サンプル位置推定の全体ワークフロー:
Zサーチ(4×)
- 共焦点ピンホールを開いた状態で、標本をZ軸に沿って大まかにスキャン
- 共焦点ピンホールを1AU(エアリーユニット)に調整し、Z位置を微調整して最適なフォーカスを探索
XYサーチ (4X)
- AI異常検出(標本が未検出・カバーガラスやウェルエッジが検出された場合)
- ステージのを標本の明るい部分に移動する
- 4X画像をマップに反映
Zサーチ (10X)
- 共焦点ピンホールを開いた状態で、標本をZ軸に沿って大まかにスキャン
- 共焦点ピンホールを1AU(エアリーユニット)に調整し、Z位置を微調整して最適なフォーカスを探索
XY探索(10×)
- ステージを標本の明るい部分に移動する
検出器感度を高めるとノイズが増え、レーザー強度を高めるとサンプルを損傷する恐れがあるというジレンマに初心者は頻繁に直面します。
イメージング条件の最適化
通常共焦点レーザー走査型顕微鏡においては、検出器感度とレーザーパワーのトレードオフがあり、適切な設定を見つけるまでに試行錯誤が必要となります。初心者は感度を上げすぎるとノイズが増え、レーザーパワーを上げすぎると標本が損傷するというジレンマの中で撮像設定を決める必要があり、しばしば設定に時間を要してしまいます。
一方、エビデントでは自社独自で開発した次世代検出器「SilVIR」によって検出器感度を調整する必要がなく、ユーザーが調整すべき主なパラメータが減り、よりシンプルな操作を実現しています。これにより、「適切なコントラストを得るためのレーザーパワー設定」が、撮影品質を左右する最重要ポイントとなっています。
レーザー出力が高すぎる
高すぎるレーザー出力は高い光毒性につながります
図6. レーザー出力と画像品質のトレードオフ。
レーザー出力が低すぎる
レーザー出力が低すぎると画像がノイズを含みます。
FLUOVIEW Smartでは、リアルタイムの画像解析と機械学習による推定に基づき、最適なレーザーパワーを自動で決定します。ユーザーは、標本へのダメージとコントラストの優先度に応じてモードを選択することで、ニーズに適した設定を簡便に適用できます。
処理の全体フローは以下の通りです。
モード選択
ユーザーは、標本へのダメージとコントラストの優先度に応じて、Gentle/Balanced/Quality の3つのモードから1つを選択します。
レーザーパワー自動調整:
ユーザーが実行ボタンをクリックすると、システムは最適なレーザーパワーを自動で設定し、処理を完了します。機能実行中は、以下の処理が装置内部で行われます。
- 4枚の画像が異なるレーザーパワーで撮影されます。
- 各画像について、画質の指標となるAIスコアを算出(図7. 手順 1-3)AIスコアをグラフ化
- 選択されたモードに基づいて最適なレーザーパワーを推定(図 7. 手順4)
図7. 次の手順によるレーザー出力推定の概念:
- AIを用いて生画像からノイズの少ないクリアな画像を予測する
- 予測画像と元の生画像を比較する
- 相関係数(AIスコア)を算出する(高スコア: 低ノイズで安定した画像、低スコア: 高ノイズで不安定な画像)
- 選択されたモードに基づいて、最適なレーザー出力を推定する
注: AIスコアは画像の信号対雑音比に類似していますが、完全に同一ではありません。スコアはレーザー出力の増加に伴って上昇し、ノイズの低減による画像品質
の向上を反映します。AIスコアが一定の値で安定する範囲が、適切なレーザー出力の目安となります。この範囲では、レーザー出力をさらに上げても画像品質の改
善はわずかであり、効果的ではありません。
まとめ
FLUOVIEW SmartTMは共焦点レーザー走査型顕微鏡におけるSWインターフェースのシンプル化と、AI技術によるワークフロー支援を実現しました。
- 複雑なSWインターフェースは初心者の障壁となる
- 機能の優先度、ワークフロー順の操作定義、グラフィカルなUIによりシンプル化を実現
- AIにより、標本検出とレーザーパワー調整が自動化され、操作が大幅に簡略化
ユーザーインターフェースを重視したソフトウェアインターフェース設計と、AIによるスマートアシスト機能の融合により、初心者でも短時間で高品質な画像取得が可能になり、研究現場の生産性と再現性を飛躍的に向上することに貢献します。
図8. AIによるスマートアシストによる顕微鏡観察の効率化