呉医療センター・中国がんセンターなど7施設と共同研究
実用化に近づく、多施設において多組織型の胃がん検出を実現
オリンパスの100%子会社である株式会社エビデント(代表取締役社長:斉藤 吉毅)は、独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター(院長:下瀨 省二)の病理診断科(兼臨床研究部腫瘍病理研究室)を含む7施設※1と、病理医の負担軽減への貢献を目的として、AI病理診断支援ソフトウェアの実用化に向けた共同研究を2017年から行っています。昨年より対象とする胃がんの組織型の拡大を行い、実運用を見据えた改良を進めてきました。さらに、学習画像データ数※2も大幅に増加したことで、ソフトウェアの汎用性をより向上させ、胃がんの検出性能を高めることに成功しました。
なお、本研究成果は2022年8月26-28日の第20回日本デジタルパソロジー・AI研究会総会にて、Developmental Therapeutics Branch, Laboratory of Molecular Pharmacology, CCR, NCI, NIH 谷山大樹先生が発表されました。
研究成果の概要
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腺癌(管状腺癌、低分化腺癌)と形態学的特徴の異なる粘液癌やMALTリンパ腫等の6種の胃がんへのAI検出対象拡大に成功し、さらに腺癌の検出性能も向上
- AI判別閾値※3については昨年までの施設毎の設定から、全施設共通閾値への設定が可能となり、ソフトウェアの汎用性の高さを実証
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学習データを増加したAI病理診断支援ソフトウェアで6施設2,717件の病理ホールスライド画像※4を判定し、6種の胃がんにおいてFNR※50~2.5%を達成
※1 独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター、独立行政法人国立病院機構大阪医療センター、独立行政法人国立病院機構四国がんセンター、独立行政法人国立病院機構長崎医療センター、国家公務員共済組合連合会広島記念病院、 一般社団法人呉市医師会呉市医師会病院、学校法人埼玉医科大学国際医療センター
※2 呉医療センター・中国がんセンターを含む、計6施設から提供された病理ホールスライド画像を学習に使用
※3 胃生検を陽性と陰性に分ける値
※4 病理標本全体を高倍率で撮影した複数枚の顕微鏡画像を1枚の画像として観察できるように加工したデジタル画像
※5 False negative rate: 偽陰性率
図1.AI病理診断支援ソフトウェアの推論結果イメージ
上段:元の病理ホールスライド画像
下段:AI 病理診断支援ソフトウェアが推論したヒートマップ。陽性と思われる部位は赤く、陰性と思われる部位は青く表示。
研究の背景と経緯
近年多くの病院で病理医が不足している一方、診断の多様化により病理診断件数は増加しています。2005 年から 2015 年にかけて 2,143,452 件から 4,762,188 件と約 2.2 倍に増加、がんの治療方針(治療薬)を決定するためなどに行う免疫染色件数も、151,248 件から 426,276 件と約 2.8 倍に増加しており、病理医の負担の増大が課題となっています※6。このような状況のなか、AI による病理診断支援の需要が高まっています。エビデントでは、AI を用いた診断支援ソリューションを確立することで、病理医の負担軽減に貢献できると考え、2017年より呉医療センター・中国がんセンターを中心とした共同研究を行っています。研究の第1※7、第2※8フェーズを経て、ソフトウェアの汎用性の検証、および精度向上を進めてきました。
※6 厚生労働省 大臣官房統計情報部 社会医療診療行為別調査より引用
※7 第1 フェーズについての詳細はこちら https://www.olympus.co.jp/news/2018/nr00867.html
※8 第2フェーズについての詳細はこちら https://www.olympus.co.jp/news/2020/nr01947.html
研究成果の詳細
AI 病理診断支援ソフトウェアのディープラーニング技術には、病理画像の特徴解析に最適化したコンボリューショ
ナルネットワーク※9(以下 CNN)を用いています。この技術により、画像内のがん 組織領域を識別し、さらにその結果に基づいて、がん画像と非がん画像の分類を行うことができます。今回の研究では、昨年実施した研究※10でのAIの学習対象となる胃がんの組織型の種類を、腺癌1種類から6種類(腺癌(管状腺癌、低分化腺癌)、乳頭腺癌、粘液癌、消化管間質腫瘍、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)に増やしました。さらに、学習に用いる画像データ数も957件から1,944件へ大幅に増加しています。
図2.学習画像データ数(左図)と評価画像データ数(右図)
GIST=消化管間質腫瘍、MALT=MALTリンパ腫、DLBCL=びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫
また、各画像における陽性・陰性をAIが判定する根拠となる判定閾値は、これまでは施設ごとに調整していましたが、今回の研究では全協力施設で共通(陰性(低異型度腸型腺腫含む)のFPR※1150%)としました。その結果、各施設の腺癌のFNRは0~4.5%だったものが0~1.7%に、その他の胃がんのFNRは0.7~78.7%だったものが0~2.5%となり、大幅な改善を実現しました。また、共通閾値での検証により、AIの汎化性能が高いことも分かりました。
図3.推論ステップにおける各施設および各病巣の評価結果
※9 画像解析に適したディープラーニング技術として広く用いられている方式。解析対象の特徴を効率的に学習できる
※10 昨年の研究についての詳細はこちら https://www.olympus.co.jp/news/2021/nr02194.html
※11 False positive rate: 偽陽性率
独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター病理診断科について
呉医療センター・中国がんセンターは中国地方における基幹病院の一つであり、病理診断科は多数の病理診断を日々行うと共に広島大学分子病理学教室および呉市医師会病院と連携して地域医療の病理診断も行っています。また、兼務する腫瘍病理研究室としてデジタルパソロジー領域を含む最先端の学術研究を行い、
国立病院機構病理協議会メンバーとして臨床病理研究も積極的に行っています。
エビデントについて
エビデントは、科学的な視点で物事を見る姿勢を事業の根幹とし、イノベーションと探求の精神が私たちの行動の原点となっています。世界の人々の健康と安心、心の豊かさを実現するため、医学的研究分野、インフラ設備の点検、製造現場における品質管理、消費材に潜んだ有害物質の検出など、さまざまな現場におけるお客様の課題解決や成果の向上に貢献します。エビデントの産業分野におけるソリューションは、設備の保守、製造、環境用途の顕微鏡、ビデオスコープ、非破壊検査装置、X線分析装置まで多岐にわたっています。また、最先端の技術を搭載したエビデントの産業分野の製品は、品質管理、検査、測定の分野でも幅広く活用されています。ライフサイエンス分野においては、最先端のライフサイエンス・ソリューションの提供し広くコラボレーションをすることで、科学者や研究者の方々や病理医をサポートします。常にお客様の抱える課題の解決や、新たに生じるニーズに応えるべく、臨床研究や不妊治療、教育分野などに向けた幅広い用途の顕微鏡システムのラインアップを提供しています。