【概要】「造る」時代から「守る」時代にシフトしつつある建設業界において、少子高齢化による人手不足の状況環境下でのインフラの維持管理は深刻な課題です。特に、都市部以外のエリアでは広大な面積の割には人手が少なく構造物調査そのものにマンパワーを割くことができない状況にあり、構造物調査の省人化・効率化は非常に重要です。 東北大学未来科学技術共同研究センターの吉川彰教授と大橋雄二准教授および日本大学工学部の岩城一郎教授と前島拓講師らのグループは、オリンパス株式会社の完全子会社である株式会社エビデントの加藤洋氏、復建技術コンサルタントの飯土井剛副部長および東北大発ベンチャーの株式会社XMAT(仙台市)の面政也代表取締役らとともに、上記の課題解決に取り組んできました。このたび蛍光X線分析法注1と拡張現実技術の組み合わせによる、新奇なコンクリート塩分濃度測定技術の開発に成功し、その技術が国土交通省の 新技術情報提供システム(NETIS)注2に登録されました(NETIS登録番号:TH-220006)。 【詳細説明】コンクリートの塩害は主要な劣化要因の1つと考えられます。凍結防止剤や潮風の影響等により、塩分がコンクリートに浸透することで鉄筋腐食等の劣化が進行するため、早期対策が求められております。 従来のコンクリート塩分濃度調査技術は、図1のようにチョーキングにより塩分濃度測定予定場所を指定し、ドリル削孔によりサンプル粉末を取得し、化学分析により塩分濃度を測定していました。このチョーキング・ドリル削孔・化学分析の主な作業は以下の通りで、多大な労力・時間を要することが課題でした。 ~各工程における主な作業~
※1 測定対象規模が大きくなれば、より多くの労力・時間を要します。 図1:従来のコンクリート塩分濃度測定方法(活用イメージ) 一方で今回開発した技術は、図2のようにコンクリート塩分濃度測定前の段階で、あらかじめ測定対象のコンクリート表面に座標割付をすることで、基準位置座標マーカー(※2)をコンクリート表面に貼り付けるだけでウェアラブルグラス(Microsoft HoloLens 2)上からの位置座標投影が可能となり、従来のチョーキング作業が不要になります。そして投影された位置座標を元にハンドヘルド型蛍光X線分析計(エビデント VANTA)により塩分濃度を計測します。この操作では1点あたりの計測時間は約30秒であり、またその場で計測データを電子データで取り扱えることから作業工程が大幅に短縮可能となります。計測データは、塩分濃度可視化システム(XMAT InfraScope)にアップロードすることで、ウェアラブルグラス上に塩分濃度計測データが同期され、塩分濃度計測値がヒートマップとして出力され、一目で塩分濃度の高いエリアを特定することが可能となります。 ※2 基準座標(x,y)=(0,0)を示すQRコードを示し、ウェアラブルグラス上のカメラからQRコードを検出すると、自動的に座標割付されたマップをホログラムとして表示します。 図2:蛍光X線分析法と拡張現実技術による表面塩分濃度のスクリーニング概要 図3は、今回開発した技術で道路橋のコンクリート床板の塩分濃度計測データを表示したデモンストレーション画像です。ウェアラブルグラス上で投影されたマップ上から、レーザーポインタで測定位置を指示し、その場所をハンドヘルド型蛍光X線分析計で塩分濃度を計測した結果を、ウェアラブルグラス上にヒートマップとして投影しています。また、図4のように、Microsoft Excel上に実装されたアプリケーション(XMAT InfraScope)を活用することで、即座に報告書添付用のヒートマップ画像ファイルを作成することができるため、報告書作成作業の簡略化も可能となります。そのため従来の技術で行っていた、チョーキング作業、ドリル削孔・埋め戻し作業、化学分析作業の何れもが不要となり、コンクリート塩分濃度計測の大幅な簡略化が実現できます。 図3:デモンストレーションイメージ 図4:計測データの報告書取りまとめ機能例 今回の発表技術の実用化により、コンクリート塩分濃度調査の人的負担・時間・コストの何れにおいても負担を大きく軽減させることが可能となります。コンクリートの塩分濃度調査の効率化により、コンクリートの主要な劣化要因としての塩害を未然に防ぐことに繋がり、インフラ長寿命化への貢献が期待できます。国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録されたことで、多くの方に当該技術をご活用頂けますと幸甚です。 【用語解説】注1 蛍光X線分析(XRF) 注2 新技術情報提供システム(NETIS) 【お問い合わせ先】株式会社エビデント |
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