自然形態美の探究―第6回イメージ・オブ・ザ・イヤー・アメリカ部門受賞者

エビデントイメージ・オブ・ザ・イヤー・アワード 2025: アメリカ地域受賞者インタビュー
柱頭上のアオイ科花粉 撮影:イゴール・シワノヴィチ(米国)

レベッカ・チャンドラー

編集部

2026年7月16日

エビデント主催の第6回「Image of the Year」コンテストにおいて、アメリカ地区の優勝者に選ばれたのは、米国の Igor Siwanowicz(イゴール・シワノヴィッチ)氏 でした。受賞作品は、アオイ科植物の柱頭上で発芽する花粉を捉えた、幻想的で魅力あふれる顕微鏡画像です。

この印象的なサンプルは、イゴール氏が研究活動を行うハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)ジャネリア研究キャンパスの花壇で採取されました。現在同氏は、同キャンパスにて無脊椎動物の解剖学と顕微鏡研究の専門家として活躍しています。

受賞画像は、40倍油浸対物レンズを搭載した共焦点レーザー走査型顕微鏡で撮影されました。今回の受賞を記念し、イゴール氏にはエビデントの正立顕微鏡CX23が贈られます。

自然界に潜む目に見えない美しさを照らし出す

イゴール氏にとって、美しさは自然界のあらゆるスケールに存在しています。顕微鏡を通して観察すると、ありふれた花でさえも肉眼では見ることのできない驚くべき構造を見せてくれます。私たちが普段目にする身近なサンプルは、精巧で壮大な風景へと姿を変えます。そうした観察体験は、自然が秘める芸術性を明らかにし、研究者はもちろん、一般の人々の好奇心や探究心をも刺激します。

イゴールさん、アメリカ地区での優勝、おめでとうございます。この画像のどのような点に魅力を感じていますか?

私は昔から、自然が生み出す形態に強く惹かれてきました。それはどんなスケールであっても変わりません。

今回特に興味を持ったのは、比較的大きな(直径約0.1 mm)アオイの花粉が柱頭上でどのように発芽するのかという点でした。花粉から伸びる花粉管(画像では花粉の周囲に見える青い管状の構造)は、雄性配偶子を運ぶ重要な役割を担っています。

また今回、共焦点画像スタックを新しい方法で処理することで、通常は強い蛍光シグナルによって隠れてしまう微細構造を強調できたことも大きな収穫でした。

この画像はどのように作製したのでしょうか?

まずアオイの柱頭を7%アガロースに包埋し、そのブロックをビブラトームで厚さ0.3 mmに切片化しました。その後、セルロースに結合する2種類の色素、Calcofluor White(青)Congo Red(赤) で染色しました。

撮影には40倍対物レンズを使用し、405 nm、488 nm、561 nmの3本のレーザーで観察しています。

画像中の緑色は植物組織に特有の強い自家蛍光によるものです。

さらに、画像スタックを投影処理する前に「Find Edges(エッジ検出)」フィルターを適用することで、まるでX線透視のような効果を生み出し、本来なら見えにくい微細構造を可視化しました。

Igor Siwanowicz(イゴール・シワノヴィッチ)氏- エビデント・第6回「Image of the Year」コンテストアメリカ地区優勝者

この画像を作成するために使用したサンプルは、どのようにして見つけたのでしょうか?

研究キャンパス内にはいくつもの花壇があり、アオイは野花用の種子ミックスに含まれているため、サンプル探し自体はとても簡単でした。

ただし、採取するタイミングは重要でした。花が咲くとまず雄しべが成熟し、その後数日かけて柱頭が長く白い突起を伸ばします。その最適な時期を見極める必要がありました。

画像作製で苦労した点はありましたか?

特別な苦労はありませんでした。使用した手法は私にとって馴染みのあるものでしたから。

例えるなら、何度も作り慣れた少し手の込んだ料理を作るような感覚でした。

「Image of the Year」コンテストの応募作品として、この画像を選んだ理由を教えてください。?

この画像は、日の出や夕焼けのような親しみやすい印象を与える一方で、どこか異世界的にも見えると思います。そのため、多くの人にとって興味深く、少し不思議な印象を抱かせる作品になっているのではないでしょうか。ただし、その「戸惑い」は良い意味での戸惑いです。学びにつながる種類のものだからです。認知科学ではこれを「最適な混乱(optimal confusion)」と呼ぶことがあります。自分の知識に欠けている部分を認識すると、人は知りたいという欲求を抱きます。その知的な違和感こそが、新たな知識の獲得を促す原動力になるのです。

アメリカ地区受賞作品と同じ標本ロットから採取されたゼニアオイの花粉。Igor Siwanowicz(イゴール・シワノヴィッチ)氏撮影

この画像から伝えたいメッセージはありますか?

「自然が生み出す美しさは、あらゆるスケールに存在しています。適切なツールを用いることで、ありふれた花の美しさが、肉眼で見える世界をはるかに超えて広がっていることに気づかされます。私たちは自然の存在を当たり前と思わず、その価値を改めて見つめ直すべきだと思います。」

Igor Siwanowicz(イゴール・シワノヴィッチ)氏- エビデント・第6回「Image of the Year」コンテストアメリカ地区優勝者

初めて顕微鏡を使ったのはいつですか?

私の専門は生化学と分子生物学です。博士課程ではNMRやX線結晶構造解析を用いて、原子レベルでタンパク質相互作用を研究していました。

しかし、私はもっと大きな視点を見たいと感じていました。

約19年前、研究テーマを自分の興味に近い分野へと転換し、ショウジョウバエをモデル生物として記憶形成や記憶保持、記憶想起を研究する神経生物学研究室に入りました。

その後、ジャネリア研究キャンパスへ移り、無脊椎動物解剖学と顕微鏡観察の専門家として独自の研究領域を築いてきました。

顕微鏡を芸術表現に活用しようと思ったきっかけは何ですか?

幼い頃に触れた図鑑や挿絵入りの教科書が大きな影響を与えました。私は文字を読めるようになる前から、それらの本を眺めていました。

その頃に出会ったのが、エルンスト・ヘッケル の作品です。

彼の『自然の芸術形態(Art Forms in Nature)』は、多様な生物を高精細な石版画で描いた傑作集であり、科学的観察と芸術的才能が見事に融合した作品です。今でも私にとって最も大きなインスピレーションの一つです。

顕微鏡でアートを始めてどれくらいになりますか?

約18年前、神経生物学へ研究分野を移した直後に、趣味として初めて共焦点顕微鏡でデータを取得しました。それが顕微鏡アートの始まりでした。

顕微鏡観察のどんな点が最も魅力的だと思いますか?

顕微鏡画像には、人々に自然の美しさや多様なデザインを再認識させる力があります。

専門家でない人にも興味や好奇心を呼び起こし、自然界をより深く探究したいという気持ちを促します。科学コミュニケーションの手段として理想的な媒体だと思います。

個人的には、20年以上続けているマクロ写真撮影を補完してくれる存在でもあります。顕微鏡によって、自然の形態をさらに親密な視点から観察できるのです。

その探究心の源は何だと思いますか?

生物学への興味は、将来の職業を考えるよりずっと前からありました。私の場合、その背景には生まれ持った要素と育った環境の両方があると思います。両親とも生物学者だったので、遺伝的な影響もあるのかもしれません。

Igor 氏が現在開発中のショウジョウバエの解剖学的モデルのレンダリング画像。 Igor Siwanowicz撮影。

現在のお仕事について教えてください?

最近は、3Dモデリングとアニメーションも自分のスキルセットに加えました。

COVID-19パンデミック中に、オープンソースの3DCGソフトウェア Blender を学び始めたのですが、その技術は職場内外で予想以上に需要がありました。

私たちは、共焦点顕微鏡やライトシート顕微鏡などの光学顕微鏡、さらにμCTやFIB-SEMトモグラフィーなどから大量の3Dデータを取得しています。

これらのデータは3Dメッシュ化し、Blenderへ取り込んで加工・レンダリングすることができます。

現在は、ゼブラフィッシュ幼生、ショウジョウバエ、ミツバチ、エンドウヒゲナガアブラムシ、マウスなどの解剖学的3Dモデルを構築しています。

あなたのイメージングの専門的な仕事は、ご自身の芸術活動と重なり合う部分がありますか?

両者には非常に大きな重なりがあります。むしろ、現在ではほぼ一体化していると言えるでしょう。それは私にとって理想的な状態です。また、趣味として開発してきた無脊椎動物組織の観察手法やプロトコルの多くが、結果的に研究業務にも大いに役立っています。

エビデントの顕微鏡について、どのようなご経験をお持ちですか?

私が初めて「芸術的な顕微鏡画像」を作成したのは FLUOVIEW™ FV1000 を使ったときでした。そして、そのうちの1枚がエビデントの前身で開催されていた BioScapes Imaging Competition 2010–2011 で優勝しました。

長い話になりますが、その出来事がなければ、私は現在ジャネリア研究キャンパスにいなかったかもしれません。

そのため、エビデントブランドとそのコンテストには非常に良い印象を持っています。

自然が持つあらゆる形の美しさを広く社会へ届けることには、大きな価値があります。

今回の受賞作品が、人々の興味を引き出し、驚きや感動をもたらしてくれることを願っています。そうした感情は、人間にとって非常に大切な心の状態だと思うからです。

レンズの先に広がる、さらに美しい自然の世界

イゴール氏の顕微鏡アートをもっと見たい方は、ぜひ過去の作品もご覧ください。

昨年イゴール氏は、メキシコアスター(Cosmic Orange)の花の断面を捉えた印象的な画像で、エビデント第5回「Image of the Year」コンテストのグランプリ(世界優勝)にも選ばれています。

科学的発見と芸術性が融合した顕微鏡画像に興味のある方は、Image of the Yearギャラリーもぜひご覧ください。(2021年、2022年のイゴール氏の作品も掲載されています。)

また、エビデントのInstagramLinkedInでは、受賞者インタビューや今後のImage of the Year開催情報も紹介しています。ぜひフォローして最新情報をご確認ください。

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レベッカ・チャンドラー

編集部

Rebeccaはエンディコット大学でジャーナリズムの学士号を取得し、科学や産業の動向や技術について執筆しています。 彼女はEvident社のエンジニアや科学者と緊密に連携し、最新のレーザースキャン、超解像、多光子、正立、ステレオ、倒立顕微鏡システムや、最先端の光学機器、カメラ、ソフトウェアについての記事を執筆しています。 彼女の活動をフォローして、細胞診、病理学、教育など、さまざまな用途におけるEvidentの最新技術について学びましょう。