肉眼では見えないものを見る: iFixitはどのようにスマートフォンの内部を解析しているのか

3D microscope image of the Samsung Galaxy S26 Ultra display built by Z-stacking on the DSX2000 digital microscope

デジタルマイクロスコープDSX2000のフォーカス合成機能を使用して作成された、Samsung Galaxy S26 Ultraのディスプレイの3Dデジタルマイクロスコープ画像。

Enrico Poege
Global Marketing Lead

2026年9月16日

スマートフォンの内部構造は、どのようにして明らかにできるのでしょうか?

製品を分解し、マイクロスコープで観察することで、肉眼では見ることのできない内部構造を詳しく調べることができます。

毎年、メーカーは最新のデバイスに採用された新技術や内部構造を紹介しています。マーケティング資料には、プライバシー層やベイパーチャンバー、高機能な接着技術などが分かりやすく描かれています。しかし、それらの図は製品を設計したメーカー自身によって作成されたものです。

iFixitは、そうした説明を実際に検証するために存在しています。同社は長年にわたり、さまざまな民生電子機器を分解解析し、修理のしやすさを評価するとともに、その根拠となる情報を公開してきました。メーカー各社もその評価を注視しているため、提示される証拠には高い信頼性が求められます。

また、スマートフォンの修理性を左右する重要な要素の多くは、スマートフォンのカメラでは捉えられない微細なスケールに存在します。例えば、接着剤の塗布状態、コーティングの構造、ディスプレイ積層構造などです。

こうした微細な構造を詳細に観察するために、iFixitでは デジタルマイクロスコープDSX2000 を活用しています。今回は、同社のシニアテクニカルライターである Arthur Shi 氏に、分解解析におけるマイクロスコープの役割や、最新のフラッグシップスマートフォンの内部観察から得られた知見、そしてSamsungのマーケティング資料と実際の構造との違いを発見した事例について伺いました。

Arthur Shi at the DSX2000 digital microscope in iFixit’s teardown lab

iFixitの分解ラボで、デジタルマイクロスコープDSX2000の前に立つArthur Shi氏。

Arthurさん、ようこそ。まずは、分解解析におけるご自身の役割について教えてください。

Arthur:私はさまざまな電子機器やガジェットを分解し、その設計思想や修理のしやすさを調査するとともに、搭載されている技術を分析し、より多くの人に分かりやすく伝える役割を担っています。電気工学の修士号を取得しており、写真撮影も趣味として長く続けているため、顕微鏡観察や撮影を担当することが多いですね。実際に見えているものが何なのかを解析し、その結果を誰にでも理解しやすい画像として可視化することが私の仕事です。

Arthur Shi working at the DSX2000 digital microscope in iFixit’s teardown lab

スマートフォンの分解作業中、デジタルマイクロスコープDSX2000を操作するArthur Shi氏。

分解解析はどのように進められ、その中でマイクロスコープはどのような役割を果たしているのでしょうか?

Arthur: 分解解析は、まさに発見と探究のプロセスです。私たちはデバイスを分解しながら、その都度マイクロスコープで詳細に観察し、構造や技術的な特徴を分析していきます。マイクロスコープによる観察は、分解作業の最後にまとめて行うものではありません。作業台には常にマイクロスコープが設置されており、気になる箇所や通常とは異なる構造を見つけたら、すぐに対物レンズの下で観察して何が起きているのかを確認します。

DSX2000を導入する前は、このレベルの詳細な観察をどのように行っていたのでしょうか?

Arthur:実際のところ、そのような画像を取得することはできませんでした。解析の一部を断念するか、あるいは基本的な顕微鏡を使用して観察していましたが、見える情報には限界がありました。そのため、記事では断定的な表現を避けながら説明を行い、不足する部分はイラストで補っていました。それでも一定の説明はできましたが、実際の構造を画像で示すこととは大きく異なります。顕微鏡画像は常に大きな反響を呼びます。実際の画像があることで、私たちが発見した内容をより直感的に理解してもらえますし、SNSで紹介されると多くの人が関心を示してくれます。やはり、人々は実際の構造や内部の様子を見ることに強い興味を持っているのです。

Galaxy S26 Ultraについてお聞きします。最初にマイクロスコープで観察したのはどの部分でしたか?

Arthur: 今回、特に注目したかったのはプライバシーディスプレイだったため、最初にディスプレイパネルを観察しました。まず表面から観察し、その後、裏面からも観察を行いました。Samsungはプライバシー機能の仕組みを示したマーケティング用の図解を公開していましたが、実際にどのような構造で実現されているのかまでは分かりませんでした。そこでパネルの両面を観察したところ、プライバシー層がディスプレイ積層構造のどこに配置されているのかを確認することができました。その結果、プライバシー層は私たちが想定していたよりも上部に配置されていることが分かりました。また、プライバシーピクセルは通常のピクセルと同じ積層構造を共有しており、視野角を制限する微細な円錐状構造が、実際にはプライバシー機能を実現する重要な役割を果たしていることも明らかになりました。

Galaxy S26 Ultraディスプレイパネルの表面観察画像。左はシェーデッドレリーフ観察による画像で、各プライバシーピクセルを囲むリング構造が確認できます。右はMIXモードで取得したRGBサブピクセル像です。

S26 Ultraのディスプレイ内部を観察して、予想外だった発見はありましたか?

Arthur:はい。落射観察を行ったところ、OLEDパネルに色が確認されました。OLEDは自発光方式であり、一般的にはカラーフィルターを必要としないため、これは予想外の結果でした。観察した限りでは、ピクセル上にカラーフィルターが配置されているように見えました。コントラスト向上や反射抑制がその目的ではないかと考えています。偏光観察では偏光効果は確認されなかったものの、コーティング層に由来すると考えられる色帯を観察することができました。分解解析の記事でこれらの結果をどのように紹介するかについては慎重に検討しましたが、そもそもこうした発見にたどり着けたのは、DSX2000によってそれらの現象を実際に観察できたからです。

3D reconstruction of the Galaxy S26 Ultra display privacy layer captured on the DSX2000

フォーカス合成によって作成したプライバシー層の3D画像。プライバシー層は予想よりもディスプレイ内部の上部に配置されており、それぞれのピークは1つのサブピクセルを表しています。

iPhone 17 Proも分解解析されたそうですね。このモデルでは傷の問題が話題になりました。

Arthur:そのとおりです。カメラ部周辺の陽極酸化アルミニウムは、鍵や硬貨との接触によって被膜が欠けることが確認されました。私たちは、その損傷がどのように発生しているのかを明らかにするため、アルミニウムのエッジ部を観察しました。その結果、鋭い角部からコーティングが剥離する様子を詳細に捉えることができました。高倍率観察では試料全体にピントを合わせることが難しいため、フォーカス合成機能を使用して被写界深度を拡張しました。これにより、損傷部分の状態を鮮明に観察できる画像を取得することができました。

Microscope images of anodized coating chipping at the iPhone 17 Pro camera plateau edge

モース硬度4(硬貨とほぼ同等の硬さ)のスクラッチピックによる試験の結果、カメラ部の段差エッジでは陽極酸化被膜が欠損し、下地のアルミニウムが露出していることが確認されました。20倍、MIXモードで観察。

iPhone 17 Proのベーパーチャンバー内部

同じ分解作業により、iPhone 17 Proの冷却ハードウェアも顕微鏡の対物レンズの下に収まりました。撮影の結果、プロセッサから熱を逃がす内部の銅製ウィック構造が明らかになりました。

Brightfield microscope images of the woven copper lattice inside the iPhone 17 Pro vapor chamber

iPhone 17 Proのベイパーチャンバー内部には、チップから発生した熱を運ぶ作動流体を吸い上げて凝縮させる、織り込まれた銅製格子構造が確認できます。右は同じベイパーチャンバーを高倍率で観察した画像です。いずれも明視野観察で取得しました。

https://adobeassets.evidentscientific.com/content/dam/mis/Blog/video/S26_ifixit_teardown_digital_microscope.mp4

Live 4K microscope video of the Galaxy S26 Ultra display powering on and off, recorded on the DSX2000 digital microscope

デジタルマイクロスコープDSX2000で4Kライブ録画された映像では、S26 Ultraのディスプレイパネルが電源のオン・オフを繰り返す様子が映し出され、プライバシー保護機構がリアルタイムで機能している様子が確認できます。

DSX2000で特によく活用している機能は何ですか?

Arthur: 光学性能は本当に優れています。用途に応じて交換できる単焦点レンズを一式持っているような感覚で、必要に応じて対物レンズを簡単に切り替えられます。また、照明機能も非常に重要です。さまざまな観察モードはそれぞれ異なる効果をもたらすため、試料の細部を際立たせるのに役立ちます。私は立体構造を素早く把握したいときにはシェーデッドレリーフ観察を使用しますし、公開する画像の多くはMIXモードで取得しています。さらに、フリーアングル観察は想像以上に重要な機能です。スマートフォンのフレームは必ずしも平坦ではないため、試料を動かすことなく光学系を傾けて観察できるメリットは非常に大きいです。この機能によって、iPhone Airの筐体内部を観察し、内部の加工痕を可視化することができました。

動画撮影機能はどのくらい活用されていますか?

Arthur: 想像以上に活用しています。試料を観察しながら4K動画を撮影し、その映像を分解解析動画に直接使用しています。Galaxy S26 Ultraでは、ディスプレイパネルの電源をオン・オフしながら撮影し、プライバシー機構の動作をリアルタイムで記録しました。これにより、構造だけでなく実際の動作も分かりやすく伝えることができます。旧世代機では動画撮影が10秒までに制限されていましたが、DSX2000ではそうした制約が大幅に改善されており、観察・解析の表現力が大きく向上しました。

特に印象に残っている発見はありますか?

Arthur:特に印象的だったのは、電子機器ではなくケース素材の観察です。AppleのFineWovenケースは汚れやすいことで不評でしたが、後継のTechWovenケースではその問題が大幅に改善されていました。両者をマイクロスコープで比較したところ、織り密度が大きく向上し、新たなコーティングが施されていることが確認できました。FineWovenは液体が繊維へ浸透しやすい構造でしたが、TechWovenでは表面に耐液体コーティングが追加され、液体が浸透しにくくなっていました。日常使用における両者の違いは一目瞭然でした。そして、その違いが生まれる理由を顕微鏡画像によって明確に示すことができたのです。

Microscope comparison of FineWoven and TechWoven case weave under MIX illumination

左:FineWovenでは、開放的な織り構造と封止されていない表面が確認でき、液体が繊維に浸透しやすいことが分かります。右:TechWovenでは織り密度が向上しており、表面には耐液体コーティングが施されています。両画像ともMIXモードで観察。

デジタルマイクロスコープDSX2000を初めて使ったときの印象はいかがでしたか?

Arthur:かなり直感的で、驚くほど美しい写真を簡単に撮ることができます。最初は少し慣れるまで時間がかかりましたが、それほど大変ではありませんでした。前世代モデルも使っていたので、多くの操作は馴染みがあり、セットアップはリモートで約30分で完了しました。セットアップが完了すれば、使い始めるのは驚くほど簡単です。普段は常に電源を入れたままにしていますが、問題なく動作しています。

デジタルマイクロスコープによって、iFixitは何を証明できましたか?

Arthur:私たちの最大の目的は、テクノロジーに関する知識や理解を広く伝えることです。そのため、人々の関心を引きつける魅力的な画像を作成できることは非常に大きな価値があります。画像そのものがストーリーを語ってくれるのです。画像によって、製品がどのような構造で作られているのかを明確に示すことができるだけでなく、ユーザーに自分のデバイスの内部構造への興味や好奇心を持ってもらうことにもつながります。DSX2000は本当に優れたツールであり、私たちの活動に欠かせない存在となっています。

図解だけでは見えてこない真実

マーケティング資料の図解からは、その層や部品が存在することは分かります。しかし、それが実際にどこに配置されているのか、どのような材料で構成されているのか、あるいは修理時にどのような影響を及ぼすのかまでは見えてきません。そのためには、実際に製品を分解し、細部まで詳しく観察する必要があります。そこには、「説明されること」と「実際に見ること」の大きな違いがあります。

それこそが、iFixit が取り組んでいる活動です。そして、その活動を支えているのが、ますます重要な役割を担う デジタルマイクロスコープDSX2000 です。同様の観察技術は、材料解析や故障解析の現場でも日常的に活用されています。DSX2000 は、さまざまな観察モードや3Dイメージング機能を制御する PRECiV DSXソフトウェアと組み合わせることで、高度な観察・解析を実現しています。

お客様のサンプルにも、まだ見えていない発見が隠れているかもしれません。

デジタルマイクロスコープDSX2000の詳細はこちら。デモのご依頼も承っています。

スマートフォンの分解解析で使用される撮像技術

この記事に掲載されている画像は、デジタルマイクロスコープDSX2000の複数の撮像技術を用いて撮影されたものです。それぞれの技術が、試料の異なる特性を明らかにしたり、異なる方法で試料を捉えたりしています。

撮像技術
説明
明視野
試料に正面から光を当てます。平らな試料に適しており、表面に対して傷が暗く映し出されます。iPhone17Proのベーパーチャンバー内部にある銅の格子構造の撮影に使用されました。
MIX
明視野と暗視野を組み合わせ、レンズの周囲から光を当てることで、傷や欠陥を捉えやすくします。S26UltraのディスプレイのRGBサブピクセル表示に使用されます。
シェーデッドレリーフ
試料を複数の方向から照らし、方向性のある陰影で表面の起伏を表現することで、3次元構造を一目で把握しやすくします。S26Ultraディスプレイの各プライバシーピクセル周囲のリングを表示するために使用されました。
偏光(PO)
2枚の直交する偏光フィルターを使用し、偏光特性を持つ試料のコントラストや色を明らかにします。S26Ultraパネルでテストしたところ、偏光効果は確認されませんでしたが、コーティングによるカラーバンディングが確認されました。
フォーカス合成
異なる焦点面での一連の画像を撮影し、それらを1枚の完全にピントの合った画像、または3D再構成画像に合成します。これにより、プライバシー層が3D画像として解像され、高倍率でもカメラの台地の縁にピントが合っている状態が維持されました。
フリーアングル観察
試料自体を動かすのではなく、光学ヘッドを試料の周囲で傾けるため、スマートフォンの筐体など平らに置けない部分も、斜めから撮影することができます。
4Kライブ動画撮影
試料をデジタルマイクロスコープ下で4K画質でライブ録画できるため、ディスプレイパネルの電源オン・オフの様子をリアルタイムで撮影することが可能です。

スマートフォンの分解検査におけるデジタルマイクロスコープの使用に関するよくある質問

デジタルマイクロスコープでスマートフォンのディスプレイをどのように観察するのですか?

ディスプレイパネルを正面と背面の両方から撮影して各層の積み重ねを確認し、さまざまな観察モードを使って、平面照明では捉えきれない特徴を浮かび上がらせます。GalaxyS26Ultraでは、iFixitがまさにこの手法を用いて、プライバシー層が積層構造のどこに位置するかを特定し、パネルの電源オン・オフの様子を4K動画で記録して、プライバシー構造がリアルタイムで機能している様子を映し出しました。

デジタルマイクロスコープにおける「フォーカス合成」とは何ですか?

また、スマートフォンの分解調査ではどのように活用されるのでしょうか?

フォーカス合成とは、複数の焦点面で画像を撮影し、それらを合成して被写界深度が拡張された単一の画像、あるいは3D画像を作成する技術です。高倍率では、1回の露光で被写体をピントの合った状態に保つことができないため、フォーカス合成処理を行うことで、iPhone 17 Proのカメラの台地の縁のような画像も利用可能になります。

電子機器の分解において、フリーアングル観察が役立つのはなぜですか?

デバイスの部品が平らに置かれていることはめったにありません。フリーアングル観察では、試料ではなく光学系を傾けることで、iFixitはiPhoneAirの筐体内部の加工状態を撮影しました。

スマートフォンの分解にデジタルマイクロスコープを使いこなせるようになるまで、どれくらいの時間がかかりますか?

iFixitによると、デジタルマイクロスコープDSX2000は直感的に操作でき、習得も比較的容易とのことです。セットアップもリモートで約30分程度で完了し、導入後は常時稼働するツールとして日常的に活用されています。

電子機器の3Dイメージングには、どのデジタルマイクロスコープソフトウェアが推奨されますか?

デジタルマイクロスコープDSX2000は、観察モードや3Dイメージングを制御するPRECiV DSXソフトウェアで動作します。

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