顕微鏡技術の革新: FLUOVIEW™ FV5000が共焦点・多光子イメージングの限界を再定義
in utero エレクトロポレーションによって7色Tetbowを発現させ、SeeDB2で透明化したマウス脳スライス サンプル提供元: 九州大学大学院医学研究院、藤本聡志先生、今井猛先生。
ライフサイエンス研究は、今まさに大きな転換期を迎えています。イメージングラボや研究基盤施設では、ますます複雑化する生物学的課題に応えるために、高解像度かつ定量的なデータへのニーズが高まっています。
神経科学、細胞生物学、創薬、がん研究、発生生物学などの分野を牽引する研究者にとって、精密なイメージングは不可欠な要素となっています。
これまで研究者たちは、画質と撮影速度のバランスを取ったり、試料へのダメージを抑えながら詳細な観察を行うなど、困難な選択を迫られることが多くありました。 繊細な生細胞プロセスの撮影には光毒性を避けるための慎重な撮影が求められ、深部組織のイメージングは光散乱や機器設定の複雑さによって制限されることがよくありました。 さらに、機器のキャリブレーションにおけるわずかな違いがユーザー、実験、あるいはラボ間で結果の不一致に繋がり、基本的な再現性の確保でさえ課題となっていました。
FLUOVIEW™ FV5000共焦点・多光子レーザー走査顕微鏡の導入により、これらの障壁は過去のものとなり得ます。
ライフサイエンス共焦点顕微鏡の新たな技術革新
FV5000は、ライフサイエンス分野の共焦点顕微鏡における革新的な技術進展を基盤として開発されました。スピード、感度、定量性が互いに競合するのではなく、調和して機能することで、あらゆるユーザーにとって、従来とは根本的に異なる撮像体験を提供します。
1. フォトンカウンティングによる定量分析
現代の共焦点顕微鏡における最も画期的な技術革新のひとつがフォトンカウンティングです。 従来の共焦点顕微鏡は、相対的な光強度を比較してサンプル間の違いを推測していました。この方法は定性的な情報を得るには有効ですが、検出器の電圧、光軸の調整、レーザー出力の安定性、さらには実験室の温度変化など、外的要因に非常に敏感です。そのため、実験ごとのわずかな違いが測定結果のばらつきにつながり、特に時間を隔てた実験や共同研究プロジェクトでは結果の再現性が低く、定量的な比較が困難でした。
光の強度レベルを比較するには、装置を非常に厳密に制御する必要があります。検出器は特定の感度で設定しなければならず、信号の増幅率や試料に届くレーザー出力も常に一定である必要があります。さらに、検出器ごとに感度が異なる可能性があるため、常に同じチャンネルを使用することが求められてきました。
SilVIR™ Detector Technology
FV5000に搭載された次世代の検出器であるSilVIR™は、個々のフォトンを検出・カウントすることで、蛍光強度を相対値ではなく絶対値として測定可能にします。これにより、共焦点顕微鏡は定性的な観察ツールから、再現性のある定量解析ツールへと進化し、従来のイメージングと解析のギャップを橋渡しします。
研究室間の再現性
定量解析の主な利点の一つは、研究室間の再現性です。 大規模な共同研究や複数拠点でのプロジェクトでは、データの一貫性が不可欠です。フォトンカウンティングにより、従来のばらつき要因が排除され、異なる施設間でも相互に比較可能なデータの取得が可能となります。
さらに、FV5000に搭載されたLaser Power Monitor(LPM)は、レーザー出力をリアルタイムで測定・補正し、励起条件や検出器の応答を一定に保ちます。フォトンカウンティングとLPMの組み合わせにより、定量解析における主要な変動要因が排除され、真の定量的な比較が可能となります。これは、神経科学や創薬など、実験の再現性が極めて重要な分野において特に有効です。
実験内での一貫性
発生過程や疾患の進行を追跡するには、数週間、あるいは数か月にわたる一貫した撮像が求められます。フォトンカウンティングにより、同一の実験系の中で一貫したデータが取得でき、科学者は日々のキャリブレーションの問題を心配することなく、時間軸での比較が可能となります。
LPMは取得中もレーザー出力の変動を補正し、日を跨ぐような長時間撮影においても同一の励起条件を維持します。これにより、微細な生物学的変化も自信を持って追跡できます。
設定調整の手間を排除
これまで、研究者は検出器の設定を細かく調整し、輝度飽和やノイズを避けるために貴重な時間を費やす必要がありました。この作業には人的なミスが入り込む可能性があり、ワークフローも複雑になります。特に、経験の浅いユーザーにとっては大きな負担となっていました。
FV5000に搭載されたSilVIR™技術により、こうした手動での調整は不要となり、あらゆるレベルのユーザーにとって、撮像がより簡単で信頼性の高いものになります。
フォトンレベルでの定量化が可能になったことで、精密な撮像における試行錯誤が不要となり、異なる実験や研究室間でも信頼できる結果を得ることができます。
2. 高感度・高ダイナミックレンジ検出
生物試料には、非常に多様なシグナル強度が含まれていることがよくあります。例えば、ニューロンの細胞体は強く蛍光を発する一方で、細い軸索は非常に弱いシグナルしか発しません。従来は、これら両方を適切に捉えるために、検出器の感度やレーザー出力を手動で調整し、異なる設定で複数の画像を取得する必要がありました。しかしながら、この方法は時間がかかるのみでなく、データの一貫性を失わせ、領域間やサンプル間で直接定量的に比較することができなくなってしまいます。
FV5000の業界最大級の高ダイナミックレンジは、この課題を解決し、暗い信号と明るい信号の両方を1枚の画像内で同時に記録することができます。これにより、試料の複雑な構造を余すことなく捉えることが可能になります。
輝度飽和の排除
暗い信号と明るい信号を同時に表示できないことのさらなる欠点は、画像の輝度飽和が生じることです。 輝度飽和とは、明るすぎる領域が検出器の許容量を超えてしまい、それ以上の情報が記録されずに失われてしまう現象です。これにより、本来得られるはずだった定量的なデータが欠落し、解析の正確性が損なわれます。FV5000の高ダイナミックレンジは、この輝度飽和のリスクを根本的に排除します。強度全体のスペクトルにわたって情報を保持することで、明るい領域と暗い領域の両方を正確に捉えることが可能になります。
輝度飽和は、解析に必要なすべての情報を失わせてしまうため、あらゆる手段を用いて回避する必要があります。FV5000のSilVIR™は、そのための非常に有効な技術と言えます。
3. 広帯域イメージングとスキャン技術
共焦点顕微鏡は、もはや可視光の範囲に限定されるものではありません。FV5000は、近赤外(NIR)レーザーを用いることで、400〜900 nmの広い波長範囲に対応しており、ライフサイエンス研究に有用なNIR色素の仕様を可能にします。
高い深部到達性
NIR光は生体組織内での散乱が少ないため、オルガノイドや胚、厚い組織切片などの3次元構造をより深くまで撮像することができます。波長の長い色素を使用することで、光の散乱が抑えられ、より深部までの観察が可能になります。
光毒性の低減
FV5000が使用する長波長の光は生細胞への負担が少なく、長時間のライブセルイメージング実験における細胞の生存性を高めます。これは、発生生物学や薬剤評価など、細胞を数日から数週間にわたって健全な状態で維持する必要がある研究において特に有用です。NIR色素を用いることで、培養環境下でも細胞が光毒性によって死滅しにくくなり、長時間の観察が可能になります。
4. ガルバノスキャンとレゾナントスキャンの両立
従来のガルバノスキャンは高精度な撮像が可能ですが、スキャン速度に制限があり、迅速な生物学的現象の記録や広範囲な組織の効率的なスキャンには不向きでした。これに対して、レゾナントスキャンはフレームレートを大幅に向上させることで、この課題を解決します。
FV5000は、ガルバノスキャンとレゾナントスキャンの両方を搭載しており、柔軟な撮像モードの切り替えが可能です。ガルバノモードは、信号対雑音比を最大限に高めたい実験や、オプトジェネティクスのような複雑な刺激パターンを必要とする用途に適しています。一方、レゾナントモードは、動的なプロセスの高速撮像に適しており、小胞輸送、カルシウムスパイク、脳全体のスキャンなど、高スループットが求められるアプリケーションに活用できます。
FV5000のスキャン機能の柔軟性により、研究者は目的に応じて最適な撮像方法を選択することができ、性能や画質を損なうことなくモードを切り替えることが可能です。
5. 高速撮像による動的現象の観察
FV5000は、高いフレームレート(FPS)での撮像に対応しており、特定の科学的用途において非常に重要な機能です。高速撮像は、小胞や細胞骨格などの高速で移動する細胞構造の追跡や、急速な生理現象の記録に最適です。
また、高速撮像は広い領域での3次元貼り合わせ撮影の取得時間を短縮するためにも活用できます。これにより、従来数時間かかっていたワークフローが、6〜10倍の速さで完了することが可能です。
SeeDB2で透明化したマウス脳切片。 Thy1-YFP-Hマウスの皮質層5錐体ニューロン(EYFP発現) サンプル提供元: 先生方 九州大学大学院医学研究院、藤本聡志先生、今井猛先生。
6. ファイバーレーザー技術による多光子イメージングの革新
多光子励起(MPE)は、脳切片やオルガノイド、生きた胚など、厚みがあり散乱の多い組織を深部まで撮像するために不可欠な技術です。従来のMPEシステムでは、大型のフェムト秒赤外レーザーが必要であり、大型の除振台や熱対策のための空調設備、そして熟練した技術スタッフが求められました。また、これらのシステムは非常に高価で、導入や運用が難しく、MPEシステムは予算や人員に余裕のある施設に限られていました。
FV5000MPEの革新的なファイバーレーザー技術により、多くの研究室が厚い3次元試料や生体組織の研究に取り組むことが可能となり、MPE分野が大きく進展することが期待されます。
コンパクトで扱いやすい設計
FV5000MPEに搭載された多光子ファイバーレーザーは、従来のフェムト秒赤外レーザーに比べて大幅に小型で、既存のシステムへの統合も容易です。また、振動や温度変化といった環境要因にも強く、安定した運用が可能です。
固定波長
FV5000MPEは920 nmおよび1064 nmの固定波長ファイバーレーザーを提供し、研究者は実験ニーズに基づいて最適な波長を選択できます。例えば、920 nmはGFPの励起に最適であり、生物試料のイメージングに広く使用されています。一方、1064 nmは散乱を低減し厚い試料への浸透性を高めるため、深部組織イメージングに最適です。
これらのレーザーは固定波長で動作するため、操作が容易で安定性が高く、ライフサイエンス研究の一般的な要件を満たしつつシステムコストの削減に貢献します。
多光子技術の普及促進
FV5000MPEは、日常的な多光子イメージングに対応できる手頃で導入しやすいソリューションを提供します。これにより、従来は導入が難しかった小規模な研究室や共用施設でも、多光子技術を活用できるようになります。ファイバーレーザーは、システムの簡素化と信頼性向上を両立し、生体試料の長時間撮像をより安定して行えるようにします。
FV5000MPEによって、多光子技術はより身近で、低コストかつ柔軟に研究室へ導入できるものとなりました。最新の技術開発により、コンパクトで使いやすく、将来的な拡張も容易なMPEシステムが実現されています。
ファイバーレーザーは、これまでリソースが限られていた研究室にも深部組織イメージングの可能性を開き、多光子技術の普及に大きく貢献します。
技術革新の転換点
新しいFV5000は、共焦点顕微鏡における技術革新の転換点となるシステムです。フォトンカウンティングと、レーザー強度のアクティブ制御・モニタリング機能により、実験や研究室を跨いでも再現性のある定量的なデータ取得が可能になりました。
また、SilVIR™の高ダイナミックレンジによって画像の輝度飽和が防止され、暗い構造と明るい構造を同時に撮像することができます。さらに、ガルバノスキャンとレゾナントスキャンの組み合わせにより、動的な生物学的現象をリアルタイムで捉えることができ、撮像から結果取得までの時間を大幅に短縮します。
加えて、FV5000MPEは多光子励起技術の普及にも貢献しており、深部組織の撮像をより多くの研究室で実現可能にしています。
これらのシステム的な進化に加え、FV5000はAIによるアシスト機能をもつソフトウェアを活用することで、複雑なワークフローを簡素化し、撮像までのセットアップ時間を短縮します。これにより、共焦点および多光子システムの操作が初心者にも扱いやすくなっています。
FLUOVIEW™ FV5000は、研究者がより速く、よりスマートに、そしてクリエイティブに作業できるよう支援するオールインワンのレーザー走査型顕微鏡システムで、論文掲載に適した画像と、信頼性の高い定量データの取得を可能にします。
高度なイメージング技術は、もはや限られた専門施設だけのものではありません。FV5000によって、より多くの研究者が新たな発見の可能性を広げることができるようになりました。
ライフサイエンス研究の可能性は、これまで以上に広がりを見せています。
特集製品
FV5000
共焦点レーザー走査型顕微鏡
- 革新的な技術がもたらす、驚異的な鮮明さ・スピード・信頼性
- SilVIR™ディテクターが、フォトンレベルの定量化、高S/N比を実現
- 比類なきダイナミックレンジで、信号スペクトル全体を捉え、輝度飽和を防止
- 高速2Kレゾナントスキャンと高解像8Kガルバノスキャンを1つのプラットフォームに統合
- FLUOVIEW Smart™ソフトウェアが、直感的な操作とAIによる自動化で使いやすさを向上
- TruResolution™自動補正環が、20種類以上の対物レンズに対応し、最適な自動調整を実現
- 最大10本のレーザーラインと将来的な多光子アップグレードに対応するモジュール設計
- レーザーパワーモニター(LPM)が、照射の安定性と再現性のある結果を長期にわたり実現
FV5000MPE
多光子励起レーザー走査型顕微鏡
- コンパクトなファイバーピグテール型レーザーにより、散乱組織内での深部定量イメージングを実現
- 最大3本のMPEレーザーによる同時励起で、ミリメートル単位の深部撮影が可能
- SilVIR™、TruAI、TruSight™技術が、卓越したS/N比と鮮明な画像を提供
- MPEに最適化された対物レンズ、TruResolution™自動補正環、自動IRレーザーアライメントにより、シャープなフォーカスを維持
- FV5000システムのアップグレードとして、またはMPE専用のフルシステムとして提供可能
- 高度な多光子アプリケーションに対応する、可変波長レーザー構成を選択可能
FV4000
共焦点レーザー走査型顕微鏡
- 革新的なダイナミックレンジで個体/組織レベルから細胞内微小構造のレベルまでマルチスケールのイメージング
- TruSpectral分光検出器による、最大6CHのマルチプレックスイメージング
- 固定細胞/生細胞のイメージングのために改良された高速・高解像スキャナー
- より深部まで、高感度でイメージングが可能な先駆的NIR蛍光イメージング
- SilVIRディテクター™により信頼性が高く、再現性が高い画像データを安心して取得
- 405nmから785nmにわたり業界最大 * の最大10本のレーザーを搭載可能
*2023年10月時点、当社調べによる。