米山先生に聞くー 肝臓オルガノイドを用いたトランスレーショナル・リサーチにおける顕微鏡の活用
米山鷹介先生は、ヒト iPS 細胞由来の肝臓オルガノイドを用いて、脂肪肝をはじめとする代謝性肝疾患や再生医療に関する研究を行われています。
このインタビューでは、米山博士に肝臓オルガノイドを用いたトランスレーショナル・リサーチに力を入れている理由、研究における倒立顕微鏡の用途、そして IXplore IX85 電動倒立顕微鏡プラットフォームの有用性についてお伺いしました。
米山鷹介先生
米山 鷹介 先生のご紹介
米山先生は東京大学農学生命科学研究科にて博士号を取得し、現在は 大阪大学医学研究科に勤務し、肝臓オルガノイドを用いた様々な研究を行っています。 その研究は、肝疾患の早期診断や新規治療法の開発、さらに再生医療の発展に大きく貢献されています。
質問: 現在、特に注力している研究テーマは何ですか。
米山先生: 私たちの研究室には、ヒト iPS 細胞から肝臓オルガノイドを作製する技術がありますが、ただ作製すること自体が目的ではなく、医療応用を見据えたトランスレーショナルリサーチを目指しています。 その一つが脂肪肝の病態における個人差のメカニズムに関する研究です。 脂肪肝の患者数は世界的に増加していますが、症状の進行には患者ごとに違いがあり、有効な治療薬がきちんと見いだせていないのが現状です。 この課題を克服するために、私たちはオルガノイド技術を用いて、患者ごとの異なる肝臓状態を再現し、病態に個人差が起こるメカニズムを研究しています。
もう一つは、肝臓オルガノイドを使って体外で血液透析を行うという新しい治療法へのアプローチです。 私たちはオルガノイドを利用した治療デバイスの開発を進めており、臨床応用を目指して研究を継続しています。
質問: オルガノイド研究に取り組むようになったきっかけは何ですか?
米山先生: オルガノイドは、ヒトの臓器を直接研究できる唯一無二のツールだからです。 肝オルガノイドの研究に関わり始めたのは 2018 年頃ですが、当時は何かのオルガノイドを作製するだけでも論文として十分でした。 私はその頃から、ただオルガノイドを作るだけではなく、一人のサイエンティストとして研究の成果を何かに還元していきたい、臨床に貢献したいという思いを抱いていました。
もう一つの理由は、ヒトの臓器がどのように成り立っているのか?、また、その仕組みの破綻と疾患はどのようにつながるのか?を解明したいという思いです。 例えば、代謝異常や疾患に至るプロセスを解明することに強い関心を持っています。 現在、ヒト臓器の形成や機能的メカニズムを解明すること、臨床に役立つ医学研究に貢献すること、この2点で研究に力を入れています。
質問: 顕微鏡は主にどのような実験や用途で使用されていますか。
米山先生: 細胞培養では、明視野・位相差像の観察などで、 倒立顕微鏡 をほぼ毎日使用しています。 特定の分子がどこでどれだけ発現しているか、細胞間や細胞内の構造がどのようになっているかを調べる場合には、 共焦点顕微鏡 などの解像度の高い蛍光顕微鏡を使っています。 オルガノイドの作製する段階から最終的な機能評価に至るまで、倒立顕微鏡はオルガノイド研究に欠かせないツールだと思います。
エビデントの倒立顕微鏡。
左: CKX53 コンパクトな細胞培養顕微鏡。 右: IXplore IX85電動倒立顕微鏡プラットフォーム。
質問: 新しいIXplore IX85™倒立顕微鏡のどのような点が実験で有効だった点について教えてください。
米山先生: まずはスループットです。 IXplore IX85 は視野が広いため、必要な画像枚数を減らすことができ、1 回の実験で必要となる細胞やサンプルから効率的にデータを取得できます。 そのメリットはとても大きいです。
また、スループットを向上させることは、作製したオルガノイドの均質性や、異常形成の頻度をモニタリングする際にも役立ちます。 研究室内でデータを議論する際も、広視野により一度により多くのオルガノイドを観察できるため、均質性や異常性に関してより正確な議論ができるようになるので助かります。
もう一つ、私が使用した中で進化してよくなったと実感した点は、画像貼り合わせ機能です。 約20~30mmのラット肝臓という比較的大きな標本で画像取得しましたが、継ぎ目がほとんど目立たない高精細な画像が得られました。 こうした継ぎ目のない画像を得るには、本来であれば条件調整や細かな設定が必要になりますが、IX85 の自動補正機能によって、ムラのない高精細な画像を簡単に取得でき、非常に魅力を感じました。
iPS細胞から作製したオルガノイド
画像提供:大阪大学医学系研究科 米山 鷹介 先生
ラットの肝臓組織
左: オリジナル貼り合わせ
右: インテリジェント シェーディング補正を適用した貼り合わせ
画像提供:大阪大学医学系研究科 米山 鷹介 先生
質問: シリコーンゲルパッドを採用したLUPLAPO25XS対物レンズは、実験にどのように役立ちましたか?
米山先生: 1つはワークフローの効率化です。 例えば、浸液レンズから別の倍率の対物レンズに切り替える際には、普段ならオイルや水を拭き取る手間が発生するのですが、 その必要がなくなったことで、大きな作業効率化につながりました。 まず全体像を撮影し、その後倍率を上げながら撮影を続けていく、途中で全体像に戻り、別の場所でシリコーンゲル対物レンズに切り替えて・・・という作業がシームレスに行えるのは非常に便利だと感じました。
もう1つは、25 倍の倍率です。 私たちは主にオルガノイドの研究を行っていますが、オルガノイド以外のサンプルを日常的に扱うため、幅広いレンジをカバーしなければなりません。 そのような場合、10 倍では倍率が低すぎ、40 倍では高すぎるため、その中間の倍率で、 作動距離(WD)が長く、深部観察性能にも優れたをずっとほしいと思っていました。この25倍でWDが 2 mmというのは、私たちの研究対象に絶妙にマッチしています。
さらに、 シリコーンゲルの深観察性能にも非常に優れいていると印象を受けました。 スフェロイドやオルガノイドの中心部、つまり約 100〜150 µm の深いところを観察しようとすると、通常のドライ対物レンズでは画像がぼやけてしまいますが、この対物レンズを使用することで、そうしたボケが大幅に改善された印象です。さらに 3D デコンボリューションと組み合わせることで、共焦点顕微鏡を使用せずにオルガノイドの構造をクリアに観察することができました。
エビデント の LUPLAPO25XS 対物レンズ(NA 0.85、WD 2 mm)、シリコーンゲルパッド技術(黄色)を搭載
質問: 今後の研究や実験について、どのような展望をお持ちですか。
米山先生: 現在の研究でも触れたように、私たちは肝臓移植に代わる新たな治療法として体外で作製した肝臓オルガノイドに血液を循環させ、透析に近いことを実現できるデバイスの開発に取り組んでいます。 この取り組みは、将来的に肝機能を補助する新たなアプローチへとつながることを目指しています。 肝臓には解毒や体の毒性物質を排除する機能がありますが、肝機能が低下した患者では、血液中に老廃物や毒性物質が蓄積しやすくなります。 もし肝臓オルガノイドがその役割を担うことができれば、将来的には移植を待つ患者のサポートに役立つ可能性があります。
臓器移植はいまだ非常に困難であり、特に肝臓の再生医療領域では、オルガノイドを用いた臨床応用の事例はまだ一例もない状況です。そういった側面からもこの研究には大きな意義があると考えています。
免責事項: 本インタビューで表明された意見や発言は、研究者個人のものであり、必ずしもエビデントの見解や主張を反映するものではありません。 本記事で紹介されている製品および技術は、研究用途のみに使用されることを目的としており、臨床または診断用途向けには設計されていません。