TruResolution™:高解像度深部イメージングを実現する球面収差自動補正技術

近年、生命科学分野における顕微鏡技術は飛躍的に進化しており、特に深部組織の高解像観察に対するニーズが高まっている。しかし、深部観察においては光学的収差、特に球面収差が画像品質に大きな影響を与えるため、精密な補正が不可欠である。

本稿では、共焦点レーザー走査型顕微鏡FLUOVIEW™FV5000および多光子レーザー走査型顕微鏡 FV5000MPEに搭載された TruResolution™システムがもたらす技術的革新とその効果について、従来の課題と比較しながら詳述する。

対物レンズの補正環による球面収差の手動補正とその課題

対物レンズは、細胞やオルガネラなどの微細構造を高精度に観察するために、複数のレンズと精密な設計・製造工程によって構成されており、収差(結像性能の誤差)を抑制している。理想的な条件下では、非常にクリアな標本画像を得ることが可能である。

しかし、標本やカバーガラスなどの媒質の屈折率が浸液と異なる場合、光の屈折により、対物レンズの中心部と周辺部からの光線の集光深度に差が生じる。この現象は「球面収差」と呼ばれ、解像度や蛍光強度の低下を引き起こす要因となる。

この収差を補正する手段として、対物レンズに搭載された「補正環」の調整が有効である。補正環を回転させることで、中心光線と周辺光線の集光深度差を補正し、理想的な結像性能を得ることができる。

たとえば、水浸対物レンズで水中に集光する場合(図1 a)、補正環を「0」に設定することで最適な結像が得られる。一方、カバーガラス越しに組織を観察する場合(図1 b)には、補正環を調整しないと球面収差が発生し、集光スポットが広がって解像度や蛍光強度が低下する。補正環を適切に調整することで(図1 c)、この収差を効果的に補正することが可能である。

ただし、レーザー走査型顕微鏡を使用する際には、暗室環境下での観察が一般的であり、画像取得中に手動で補正環を操作することは困難である。また、補正環の調整によってフォーカス位置が変化するため、最適な設定には経験と熟練を要する。

さらに、深部観察においては、表面付近で補正環を調整しても、観察位置を深部に移すと再び球面収差が発生する(図1 d)。そのため、Zスタック画像を取得する際に、すべての深さで最適な補正量を設定することは非常に困難である。

図1:標本やカバーガラスによる球面収差の発生と補正環調整の効果を示す概念図

(a) 理想条件における集光状態。水中にある観察対象に対して水浸対物レンズを用いた場合、対物レンズの中心部と周辺部からの光線は同一の深さで集光し、球面収差は発生しない。
(b) 球面収差が発生した場合の集光状態。浸液を水とし、カバーガラスを介して組織を観察した場合、カバーガラスの界面で光が屈折し、中心光線と周辺光線の集光深度に差が生じ、球面収差が発生する。
(c) 補正環で球面収差を補正した場合の集光状態。補正環を適切に調整することで、中心光線と周辺光線の集光深度差が補正され、理想的な集光状態が得られる。
(d) (c)の状態から観察位置を深部に移動した場合の集光状態。補正環を表面付近に合わせたまま深部を観察すると、再び球面収差が発生し、集光スポットが広がる。

電動補正環と自動補正アルゴリズムによる球面収差補正の最適化

TruResolutionシステムは、簡便操作での補正環調整を実現し、球面収差補正に関する従来の課題を解決した。
まず、対物レンズに電動補正環を搭載することで、暗室環境下においてもレンズに直接触れることなく、ソフトウェア上から補正環を操作できるようになり、操作性が大幅に向上した。さらに、補正環の回転角に応じて対物レンズのZ位置を自動で追従させる機構により、補正環を回転させてもフォーカス位置が変化せず、常に正確なピントを維持することが可能となった(図2a)。
加えて、TruResolutionシステムには、最適な補正環位置を自動で決定するインテリジェントなアルゴリズムが搭載されている。異なる補正環位置で取得した複数の画像からコントラストカーブを算出し、そのピーク位置をもとに最適な補正値を高精度に導き出すことができる(図2b)。これにより、ソフトウェア上でワンクリックするだけで、最適な補正環位置を自動設定することが可能となった。
また、Zスタック画像取得時には、各深さに応じた補正環位置をあらかじめ登録しておくことで、撮影中に補正環が自動で回転し、常に最適な状態での画像取得が実現される。このTruResolutionシステムにより、これまで困難であった深部Zスタック観察における補正環の調整が可能となり、あらゆる深さにおいて明るく高解像な画像を得ることができるようになった。

図2 TruResolutionシステムにおける補正環制御と最適化アルゴリズムの概念図
(a) 従来の対物レンズとTruResolutionシステムにおける、補正環回転時のフォーカススポット位置変化の概念図。従来は補正環を回転させることでフォーカス位置が変化していたが、TruResolutionシステムでは補正環の回転角に応じて対物レンズのZ位置を自動で追従させることで、フォーカス位置を一定に保つことが可能である。
(b) 最適な補正環位置(θopt)の設定方法。補正環を回転させながら複数枚の画像を取得し、それぞれの画像からコントラスト値を算出してコントラストカーブを生成する。このカーブのピーク位置を解析することで、最適な補正環位置を高精度に決定する。

TruResolutionによる多光子励起顕微鏡での深部観察効果

TruResolutionシステムの導入により、これまで困難であった深部Zスタック観察における補正環の調整が可能となり、あらゆる深さにおいて明るく高解像な画像取得が実現された。

特に多光子励起顕微鏡においては、共焦点ピンホールやカメラを使用しないため、解像度は集光スポットのサイズに大きく依存する。深部では光の散乱により蛍光信号が減衰するが、スポットサイズを小さく保つことで励起密度を高め、信号低下を補うことが可能である。このため、球面収差補正は解像度および蛍光強度の両面において極めて重要な要素となる。

図3は、マウス脳を模擬した屈折率および散乱係数を調整したゲル中の蛍光ビーズを観察した結果である。TruResolutionシステムを使用した場合、観察深度が変化しても励起光のスポットサイズが均一に保たれ、画像の明るさも安定している。一方、補正環を表面位置で固定した場合には、深さに応じてスポットが広がり、明るさが低下することが確認された。

図3:マウス脳の光学特性を模擬したゲル(屈折率1.36,散乱係数43 cm-1)中の各深さでの蛍光ビーズ(φ200 nm)の観察結果
励起波長は960 nm。上段がTruResolutionシステムで補正環を自動調整した場合、下段が補正環を表面位置で最適化して固定した場合を各々示している。両観察で励起強度は等しく、画像輝度は各深さで規格化している。対物レンズはFV30-AC25Wを利用。

次に、生体サンプルを用いた観察結果を示す。図4は、マウス脳内の神経細胞樹状突起を深さ400 µmにおいてin vivoで観察した画像である。TruResolutionシステムを使用した場合、同一の励起強度においても、より明るく鮮明な画像が得られた。

図4:マウス脳神経細胞樹状突起の in-vivo 観察結果(Thy1-YFP-H mouse, sensory cortex) 観察深さは400 µm、励起波長は960 nm、対物レンズはFV30-AC25Wを利用し、同一励起強度で撮影した。上段がTruResolutionシステムによる補正環自動調整した場合、下段が補正環を表面調整位置で固定した場合の画像。

TruResolutionシステムは、透明化処理された組織サンプルに対しても有効である。透明化サンプルでは、使用する試薬によって屈折率が大きく異なるため、光学性能に影響を及ぼす可能性がある。たとえば、XLPLN10XSVMP対物レンズは屈折率1.33〜1.52の範囲に対応している。しかし、補正環の調整が不適切な場合には収差が発生し、画像品質が低下する。

TruResolutionシステムを用いることで、透明化サンプルに対しても補正環を自動で調整することができ、常に明るく高解像な画像を取得できる。

図5 aは、Sca l eA2で透明化したマウス脳を約4 mmの深さまでZスタック観察したXZ画像である。TruResolutionシステムを使用した場合、深部においても明るく均一な画像が得られた。なお、浸液とサンプルの屈折率が一致している場合には、補正環の調整は1箇所のみで済む。

図5 bは、深さ2.7 mmにおけるXY画像であり、こちらもTruResolutionシステムで取得した画像は明らかに明るく、より鮮明であった。

Figure 5: Mouse brain (Thy1-YFP-H mouse)cleared with ScaleA2.

図5:透明化マウス脳サンプルにおけるTruResolutionシステムの効果比較
透明化手法にはScaleA2を使用した。左側はTruResolutionシステムにより補正環を自動調整した場合、右側はCUBIC透明試薬の屈折率に補正環を手動で合わせた場合をそれぞれ示している。両条件において励起強度は等しい。励起波長は960 nm、対物レンズにはFV30-AC10SVを使用した。
(a) Zスタック画像取得後、Y方向に250 µm厚をmaximum intensity projectionした結果。
(b) 深さ2.7 mmの位置において、Z方向100 µm厚をmaximum intensity projectionした結果。

TruResolutionによる共焦点レーザー走査型顕微鏡での高解像画像取得効果

共焦点レーザー走査型顕微鏡においては、カバーガラスの厚みのばらつきにより球面収差が生じ、高解像画像の取得が困難となる場合がある。補正環の調整が不十分である場合、画像はぼやけて暗くなり、観察精度が著しく低下する。

電動倒立顕微鏡 IXplore™ IX85には、対物レンズ補正環の電動駆動部が装着されており、エビデント製のほとんどの倒立顕微鏡用補正環付き対物レンズに対応している。観察目的に応じて対物レンズを交換することで、TruResolutionシステムとして柔軟に運用することが可能である。

図6は、RapiClearで透明化したマウス脳切片をZスタック観察し、取得したXYZ画像を示している。TruResolutionシステムを使用した場合、XYおよびZ方向の分解能が向上し、より明るく鮮明な画像が得られていることが確認された。

図6:RapiClear 2で透明化したマウス脳切片の画像

対物レンズは LUPLAPO25XO(NA 1.0、WD 1 mm)を使用し、0.85 µmステップで27枚のZスタック画像を取得した。表示しているのは、XY平面のmaximum intensity projection(MIP)画像およびXZ/YZ断面画像である。
(マゼンタ) DAPI 細胞核、 (緑) GFP ニューロン
(a) TruResolutionシステムにより補正環を自動調整して撮影した画像。
(b) 補正環を屈折率が最も低い方向に回し切った位置で撮影した画像。この状態は、対物レンズをレボルバーに取り付ける際に補正環を保持したまま回し込んだ場合に相当する。
補正環の位置を適切に自動調整した状態で撮影を行うことで、画像の明るさおよび分解能が向上することが確認された。

まとめ

本稿では、TruResolutionシステムがもたらす球面収差補正の自動化技術と、その効果について詳述した。従来、深部観察や透明化サンプルの撮影においては、補正環の調整が大きな課題であり、画像品質のばらつきや操作の煩雑さが問題となっていた。
TruResolutionシステムは、補正環の電動制御、フォーカス位置の自動追従、最適補正位置の自動決定、さらにはZスタック撮影への対応といった一連の機能により、これらの課題を根本的に解決するものである。
今後、さらなる深部観察や多様な試料条件への対応が求められる中で、TruResolutionシステムは高精度かつ再現性の高いイメージングを支える中核技術として、顕微鏡観察の可能性を大きく広げるものと期待される。

著者

株式会社エビデント プロダクトマネージメント
宇都宮 弘美

サンプル作製、画像の取得にご協力賜りました先生:

理研CBS-エビデント連携センター
毛内 拡先生、平瀬 肇先生、宮脇 敦史先生

参考文献

上記研究内容の詳細は下記文献をご参照下さい。
Ue, Y., Monai, H., Higuchi, K., et al. “A Spherical Aberration-Free Microscopy System for Live Brain Imaging.” Biochemical and Biophysical Research Communications, 2018, Vol. 500, 236–241.

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