シリコーンゲル浸対物レンズを用いたオルガノイドイメージングの課題解決
脳オルガノイド: シアン: 細胞核、緑: TUJ1、赤: PAX6
ヒトの臓器を模倣したオルガノイドは、創薬スクリーニングや疾患モデリングにおいて、ますます重要になっています。 一方で、その厚みや大きさは、顕微鏡観察における課題の一因となっています。
多くの研究者は、低倍率の対物レンズで全体像を観察した後、高倍率の対物レンズに切り替えて、その詳細構造を観察するというワークフローを採用しています。あるいは、ステッチング画像を作製して標本全体を高解像で可視化する方法もあります。 これらのワークフローにおいて、標準的なドライ対物レンズは操作性に優れるものの、オルガノイドの深部をイメージングする際には、解像度や作動距離の制約が問題となることがあります。
高解像度の3Dイメージングを実現するには、液浸対物レンズ(水浸、オイル浸、シリコーンオイル浸)を用いた共焦点顕微鏡によるイメージングが標準的手法とされています。しかし、ステージ移動中に液浸対物レンズの浸液が切れて正常な観察ができなくなることや、液浸対物レンズでの観察後にドライ対物レンズに切り替える際、ディッシュ底面に残った浸液がドライ対物による画像劣化の原因となるといった課題もあります。
本稿では、このような課題を解決する画期的なソリューションとして、世界初のシリコーンゲル浸対物レンズ(LUPLAPO25XS)と FLUOVIEW™ FV5000 共焦点レーザー走査顕微鏡 を組み合わせた脳オルガノイドイメージングを評価しました。従来のシリコーンオイル浸対物レンズと比較し、この光学技術がもたらす3つの利点について詳しく説明します。
オルガノイドイメージング実験のプロトコル
今回の検証には、以下のプロトコルで作製したオルガノイドを使用しました。
脳オルガノイドの作製
eTeSR培地(STEMCELL Technologies)を用いて、未分化条件下で維持培養したヒト人工多能性幹細胞(hiPSC;201B7株)を、 STEMdiff Cerebral Organoid Kit(STEMCELL Technologies )を用いて脳オルガノイドに分化誘導を行いました。分化誘導のプロセスは、STEMdiff Cerebral Organoid Kitのプロトコルに従い実施しました。
免疫染色と組織透明化
オルガノイドは固定後、核染色としてDAPI、神経マーカー用の anti-TUJ1(Alexa Fluor 488)、および神経前駆細胞マーカー用の anti-PAX6(Alexa Fluor 594)を用いて免疫染色を行いました。 染色後、組織透明化試薬 SCALEVIEW-S4 を用いて、サンプルの透明化を行いました。
脳オルガノイドイメージングにシリコーンゲル浸対物レンズを用いる3つの利点
今回の検証実験により、シリコーンゲル浸対物レンズ「LUPLAPO25XS」と共焦点顕微鏡「FV5000」を組み合わせることで、脳オルガノイドイメージングにおける以下の課題を解決できることが示されました。
1. 安定したZスタックイメージング : オイル切れの解消
従来のシリコーンオイル浸法では、対物レンズ先端とディッシュ底面の間が常にシリコーンオイルで満たされている必要があります。 深部までのZスタックイメージングや大きなZ軸方向のフォーカス調整を行う際、このオイルによる接触が切れてしまうことがあります。
- シリコーンオイルの課題: 一度シリコーンオイルの接触が切れると、元のZ座標に戻しても、オイルが再びメニスカスを形成できないため、画像がぼやけてしまうことがあります。 その場合、オイルを補充したりレンズを再調整したりする必要があり、実験が中断されます(図1)。
- シリコーンゲルの利点:シリコーンゲル浸対物レンズの場合、レンズをディッシュから大きく遠ざけたとしても、シリコーンゲルの弾性特性による復元力があるため、目標のZ座標に戻せばすぐに高解像度画像を取得できます。 これにより、より柔軟なフォーカス調整と再現性の高いイメージングが可能になります(図2)。
図1。 シリコーンオイル浸対物レンズのオイルが切れると、画像の明るさや解像度低下の原因となります。 青: 核。 緑: TUJ1。 赤: PAX6。
左: UPLSAPO30XSIRシリコーンオイル対物レンズによる通常観察;画像は鮮明です。
右:Z座標を大きく動かして再び元の位置に戻すと、、対物レンズとディッシュ底面の間のオイルが切れるため、明るさと画質が低下します。
図2。 シリコーンゲルは対物レンズを動かした後も同じ画像を撮像可能。 青: 核、緑: TUJ1、赤: PAX6。
左: 通常LUPLAPO25XSシリコーンゲル浸漬対物レンズでの観察でも、画像は鮮明です。
右:Z座標を大きく動かして再び元の位置に戻しても、同じ画質が再現されます。
2. シームレスな対物レンズ切り替え: クリーニング不要のワークフロー
一般的な観察ワークフローでは、高解像度の液浸対物レンズで詳細な観察を行った後で、低倍率のドライ対物レンズに切り替えることがあります。
- シリコーンオイルの課題: シリコーンオイルが、ディッシュ底面に残留してしまいます。オイルを完全に拭き取らずにドライ対物レンズに切り替えると、残留オイルによる強い球面収差が発生し、不鮮明な画像の原因となります。 オイルの拭き取りは煩雑であるだけでなく、標本の位置がずれてしまうリスクもあります。(図3)。
- シリコーンゲルの利点: シリコーンゲルは非流動性であるため、ディッシュ底面に残留物を残しません。 ゲル浸対物レンズからドライ対物レンズに切り替えても、画像の劣化なく観察を継続できることが可能です。 これにより、ドライ対物レンズの操作性と液浸対物の高い光学性能を兼ね備えたシームレスなワークフローが実現します(図4)。
図3。 シリコーンオイル浸対物レンズ使用前後のドライ対物レンズの画像比較。 グレー:核。
左: シリコーンオイル浸対物レンズ使用前の20倍ドライ対物レンズ(UPLXAPO20X)による画像。
右: シリコーンオイル浸対物レンズ使用後の20倍ドライ対物レンズによる画像。 残留オイルにより、画質が低下します。
図3。 シリコーンオイル浸対物レンズ使用前後のドライ対物レンズの画像比較。 グレー:核。
左: シリコーンオイル浸対物レンズ使用前の20倍ドライ対物レンズ(UPLXAPO20X)による画像。
右: シリコーンオイル浸対物レンズ使用後の20倍ドライ対物レンズによる画像。 残留オイルにより、画質が低下します。
3. マルチウェル観察: 画像ステッチングにおける安定性
ハイスループット解析では、マルチウェルプレート内の複数のオルガノイドの画像ステッチングや3Dイメージングが必要とされることがあります。
- シリコーンオイルの課題: シリコーンオイル浸対物レンズでは、ウェル間でステージを移動させると、シリコーンオイルが切れてしまい、マルチウェル撮影に失敗することがあります。 本検証においても、最初のウェルから次のウェルへ移動した時点で、オイルによる接触を維持することができず、2ウェル目以降では正常な画像を取得することが出来ませんでした(図5)。
- シリコーンゲルの利点: シリコーンゲル浸対物レンズは、ウェル間を移動させてもゲルが損傷することなく、マルチウェルプレート内のすべての対象オルガノイドを撮影することに成功しました。(図6)。
図5。 シリコーンオイル浸レンズを用いた多点イメージング(6×6 ステッチ画像)。 青: 核。 緑: TUJ1。 赤: PAX6。 チャンバースライドの各ウェルにオルガノイドを1つずついれた3つのオルガノイドの観察を行いました。2番目のオルガノイド以降、オイル切れによりイメージングに失敗しました。
図6。 シリコーンゲル浸対物レンズを用いた多点イメージング(6×6ステッチ画像)。 青: 核。 緑: TUJ1。 赤: PAX6。 シリコーンゲル浸対物レンズを用いて、チャンバースライドの各ウェルにオルガノイドを1つずついれた3つのオルガノイドの観察を行いました。いずれのウェルのオルガノイドも高画質での撮像に成功しました。
オルガノイド研究のための新基準
今回の検証により、LUPLAPO25XS シリコーンゲル浸対物レンズは、ドライ対物レンズの操作性と、液浸対物レンズの高い光学性能の両方の利点を兼ね備えていることが確認されました。
本対物レンズをFV5000共焦点レーザー走査型顕微鏡と組み合わせることで、観察時のオイル切れや、観察後のオイル除去といった煩雑な作業に煩わられることなく、オルガノイドの高精細画像の取得に注力することが出来ます。
シリコーンゲル浸対物レンズを用いて、高画質と再現性を実現しながら、オルガノイドイメージングをどのように効率化できるのかを、さらに詳しく知りたい方は、今すぐEvidentチームまで、お気軽にお問合せください。デモンストレーションのご案内も可能です。
Featured Products
FV5000
共焦点レーザー走査型顕微鏡
- 革新的な技術がもたらす、驚異的な鮮明さ・スピード・信頼性
- SilVIR™ディテクターが、フォトンレベルの定量化、高S/N比を実現
- 比類なきダイナミックレンジで、信号スペクトル全体を捉え、輝度飽和を防止
- 高速2Kレゾナントスキャンと高解像8Kガルバノスキャンを1つのプラットフォームに統合
- FFLUOVIEW Smart™ソフトウェアが、直感的な操作とAIによる自動化で使いやすさを向上
- TruResolution™自動補正環が20種類以上の対物レンズに対応し、最適な自動調整を実現
- 最大10本のレーザーラインと将来的な多光子アップグレードに対応するモジュール設計
- レーザーパワーモニター(LPM)が、照射の安定性と再現性のある結果を長期にわたり実現