AIがDNA研究の新たな道を切り開く
ヒトの細胞が分裂するとき、そのDNAは正確に複製される必要があります。これは私たちの健康にとって不可欠です。DNA複製にエラーがあると、深刻な疾患につながる可能性があります。すべてのがんのうち最大3分の2は、DNA複製におけるエラーの蓄積によって引き起こされると推定されています。
DNA 複製は人間の健康にとって重要であるため、生物医学研究において重点的に研究される分野となっています。細胞がどのようにDNA複製を正確に調節しているのか、そしてなぜ時々うまくいかなくなるのかをさらに理解できれば、病気の予防と治療において大きな進歩を遂げることができ、健康を増進し命を救うことができます。
30年間にわたるDNA研究の中で、MCMタンパク質複合体の挙動とDNA複製におけるその役割に関する謎が、世界中の科学者たちの意見を分裂させてきました。研究者たちは、MCM 複合体に関する逆説的な事実に困惑し続け、それが「MCM パラドックス」として知られるようになり、今日まで未解決のままとなっています。
Hana Polasek-Sedlackova博士は受賞歴のある科学者ですが、最近DNA複製の分野でいくつかの興味深い発見をしました。その 1 つは、MCM パラドックスの解決です。これは、Polasek-Sedlackova 氏が TruAI™ ディープラーニングテクノロジーを搭載したモジュール式の顕微鏡ベースのイメージングプラットフォームである Evident の scanR ハイコンテンツスクリーニングステーションを使用することで可能になりました。
これまで、活性 MCM が DNA 複製において主要な役割を果たすことは知られていましたが、細胞内の DNA 合成現場で活性 MCM が可視化されたことは一度もありませんでした。一方、過剰な不活性 MCM は可視化されていました (「パラドックス」)。
Polasek-Sedlackova 氏とそのチームは、scanR ハイコンテンツイメージングと MCM のタグ付けおよび追跡を使用して、MCM の活動を視覚化することに成功しました。また、過剰な不活性 MCM が自然複製一時停止部位 (NRPS) として機能し、DNA 複製中のエラーを最小限に抑えることを発見しました。1,2 このパラドックスが説明され、Polasek-Sedlackova 氏は NRPS ががん治療の魅力的な新しいターゲットであることを発見したのです。
「scanRシステムはMCMパラドックスを解決する上で重要な役割を果たしました」とPolasek-Sedlackova氏は言います。「特に感銘を受けたのは、細胞過程を偏りなく完全に自動で解析できる点でした。科学研究において現在問題になっている再現性の危機を考慮すれば、細胞過程を偏りなく示す、完全自動方式のデータ取得・解析が可能なツールを追い求めることが、研究者にとって必要だと思います」
Polasek-Sedlackova 氏は scanR システムの多くの機能を高く評価していますが、自動取得と分析のユニークな連携により、取得した画像のマルチパラメータ分析をリアルタイムで実行できることに特に感銘を受けたと述べています。
「現在のAIの時代において、画像解析は以前の限界を超えて進歩しています」と博士は言います。「scanRシステムのTruAIディープラーニングモジュールは、私の研究の幅を大きく広げてくれました。以前は、培養されたヒト細胞株の大きな集団の中の単一細胞を解析することに重点を置いていました。しかしTruAIを使うことで、例えば臓器切片内の個々の細胞を極めて微細に画像解析できます」
参考文献
1.Polasek-Sedlackova H, Miller TCR, Krejci J, Rask MB, Lukas J.Solving the MCM paradox by visualizing the scaffold of CMG helicase at active replisomes.Nat Commun.2022 Oct 14;13(1):6090. doi:10.1038/s41467-022-33887-5.PMID:36241664;PMCID:PMC9568601. https://www.nature.com/articles/s41467-022-33887-5
2.Sedlackova, H.,Rask, M.-B.,Gupta, R.,Choudhary, C.,Somyajit, K.,Lukas, J.(2020, October 21).Equilibrium between nascent and parental MCM proteins protects replicating genomes.Nature News. https://www.nature.com/articles/s41586-020-2842-3